今日は小論文の書き方を整理しましょう。
やってやるぞ。
どんとこい。
小論文の「大きな」構成について
まずは大きな構成です。
全体は大きく3つに分けて考えましょう。
一般的に、「序論」「本論」「結論」と呼びます。
序論(紹介)/本論(論拠)/結論(まとめ)
【序論】 Introduction(紹介) パラグラフは1つ
【本論】 Body(具体的な論拠) パラグラフは複数可
【結論】 Conclusion(まとめ) パラグラフは1つ
この「3つの構造」は、
英語では、
Introduction
Body
Conclusion
などと呼びます。
細かいところはやや違うんですけれど、「3つに分けるという点では似てる」くらいに考えておきましょう。
いきなり「パラグラフ」とか言い出してまだわかりにくい。
「パラグラフ」は「形式段落」のことです。
日本語で「段落」というと、「意味段落」と「形式段落」があってややこしいので、ここでは「形式段落」のことを「パラグラフ」と呼んで説明していきます。
真ん中の「Body(本論)」というところは、パラグラフを複数に分けてもいいということなんだね。
そういうことになります。
多くの場合、「Body」のところを「3つのパラグラフ」にして、小論文全体としては「5つのパラグラフ」にします。
この「小論文全体を5つのパラグラフで書く」という方法が最も応用が利くので、これを「基本スタイル」と考えましょう。
この形式を「ファイブ・パラグラフ・エッセイ」と言います。
ちょっと、次の図を見てください。
「ファイブ・パラグラフ・エッセイ」の構成の一例
なんていうか、「ザ・小論文」って感じ。
いちばん上のパラグラフが「Introduction」です。
真ん中の3つのパラグラフが「Body」です。
最後のパラグラフが「Conclusion」です。
このように、真ん中の「Body」が「3つのパラグラフ」になることが多いのですね。
典型的な「ファイブ・パラグラフ・エッセイ」です。
真ん中の「Body」は、やっぱりパラグラフを複数に分けたほうがいいの?
論文全体の字数次第ですが、普通は分けます。
小論文の試験の一般的な字数は、800字~1,000字くらいなので、その場合、「論文全体で5つのパラグラフ」にできます。
すると、真ん中の「Body」は3つくらいのパラグラフになります。「Body」のパラグラフの数はいくつになってもいいので、論文全体で2,000字くらい書くのであれば、「Body」は6つくらいになります。
逆に、制限字数が短い場合は、「Body」に3つ書くことは困難です。
たとえば、500字くらいの小論文であれば、「論文全体で3つのパラグラフ」くらいにしかできません。すると、真ん中の「Body」は、「1つのパラグラフ」で書くしかありませんね。
このように、全体の字数が短ければ、「Body」が「1つ」になってもいいですし、反対に全体の字数が長ければ、「Body」が「6つ」になってもいいと考えてください。
いずれにしても、「Body」を「3つ」で書くことに慣れておくと、「1つ」にしたり「6つ」にしたりすることができますので、やはり「Bodyは3つ」で練習しておくといいですよ。
「ファイブ・パラグラフ・エッセイ」の形式に慣れておこう!
論文全体の字数によって、「Body」のパラグラフの数を増やしたり減らしたりする。
◆全体の字数が500字なら、「Body」のパラグラフは「1つ」
◆全体の字数が1,000字なら、「Body」のパラグラフは「3つ」
求められている全体の字数にしたがって、パラグラフの増減を考えるといいですね。
なるほどね。
でも、「Body」を3つといっても、何を3つも書くの?
ひとまず、「Introduction」「Body」「Conclusion」についてもうちょっと詳しく見ていきましょう。
「Body」のところの説明で「3つに分ける方法」について話します。
Introduction【序論】 テーマ+主張(+理由)を書く。
「Introduction」に最低限必要なのは、「テーマ」と「主張」です。この2つは必ず書きます。
「テーマ」は、「何について話すのか」という「主題」のことですね。原理的に、「解決」「議論」「意味づけ・定義づけ」が求められることがテーマになります。
ざっくり分けると、
(1)困っていること(解決が求められる)
(2)賛否に分かれていること(議論が求められる)
(3)何だかよくわからないもの(意味づけが求められる)
といったものですね。
試験の場合「設問」がありますから、その「設問」に応じて、(1)(2)(3)のどのパターンでいくか区別していきましょう。
「問い」がそのまま「テーマ」になっていることも少なくありません。
(1)なら、「プラスチックごみをどう処理するか」
(2)なら、「死刑の是非についてどう考えるか」
(3)なら、「勉強は何のためにするのか」
なんていうものかな。
そういう感じです。
(3)については、「自由とは何か」なんていうのも含まれますね。「自由とは~である」と自分なりに定義して、その根拠を挙げていきます。
じゃあ、「主張」というのは、そのテーマに対する「自分なりの答え」を書けばいいだな。
そのとおりです。
「主張」というものは、論文作成者の意見の「核」となるもので、具体的には、
(1)解決策
(2)立場(賛成か反対か)
(3)意味づけ
のどれかになります。
このどれかがあれば「主張がある」とみなされます。
逆に言うと、この(1)(2)(3)のどれも存在しない小論文は、点数をもらうことができません。どれかは書くようにしましょう。
「テーマ」と「主張」で対応していればいいんだな。
そうです。
「テーマ(問い)」が、「プラスチックごみ問題についてどう考えるか?」というものであれば、「自然に還っていかないプラスチックのごみで社会全体が困っている」ことがテーマになりますから、「主張(核となる意見)」は(1)の「解決策」を書けばいいことになります。
「テーマ(問い)」が、「制服はあるほうがいいか、ないほうがいいか?」というものであれば、「賛成/反対」の真っ二つに分かれていますね。このように、賛成/反対の二項に分けられるテーマであれば、「主張(核となる意見)」は(2)の「立場」を書けばいいことになります。
「テーマ(問い)」が、「勉強は何のためにするのか」というものであれば、「勉強」の「意味」や「価値」を見出すことが主題になります。その場合、「勉強は、社会に貢献できる存在になるためにするものである」といったように、意味づけをすればいいことになります。「主張(核となる意見)」は(3)になります。
(1)「困っていること」がテーマなら、その解決策を出す。
(2)「対立していること」がテーマなら、どちらかの味方をする。
(3)「何だかよくわからないもの」がテーマなら、その意味を見出す。
ということだな。
そのとおりです。
小論文は、必ずこの3つのうちのどれかで書くことができます。
(2)については、「対立していること」の「あいだ」に入って、「両者を融合させたよりよい案」を考える手法もありますが、これはちょっと応用的な書き方なので、ここでの説明は省きます。
「3パターンのどれか」と心がけておけば、書き出すのが早くなりそうだね。
「主張(核)」の「次」が「理由」
なお、小論文の配置としては、「主張(核)」の「次」に「理由の表現を書く」という「一般的な並び」があります。
ただし、この「理由の表現」は、「主張(核)」の「次」に書かれていればよいので、「主張」と「理由」のあいだで段落が変わっていても問題ありません。そのため、「なぜなら、~からだ」という「理由パート」は、「Introductionの最後」にあっても、「Bodyの最初」にあっても、どちらでもOKです。
おすすめの書き方としては、「Introduction」の最後で、「理由」について軽くふれておくといいですよ。
「なぜなら、~であるからだ」というように、理由をコンパクトに書いてしまってもいいですね。そうすると読者は、「Bodyの部分で、その理由について具体的に深掘りしていくんだな」と予測できます。
あるいは、「理由は3つある」というように、「理由の数」を書くのもOKです。そうすると読者は、「Bodyの部分で、3つの理由をそれぞれ説明していくんだな」と予測できます。
Body【本論】 理由について具体的に説明する。
「3つ」の分け方
「Body」は、「理由についてくわしく書く場所」ということなんだな。
そういうことになります。
「くわしく」というのは、「掘り下げる」か、「細分化する」か、どちらかになります。
「1つの理由」を深堀りしていくのか、理由そのものを3つくらいに分けるか、どちらかということだな。
そのとおりです。
【深掘り型】と【列挙型】のどちらが書きやすいかはテーマ次第ですね。
テーマに合わせて、書きやすいほうを選びましょう。
【深掘り型】
(1)プラン(提案)の特徴やメリットをくわしく説明する
(2)他の案と比較し、自説の優位性を示す。
(プランのデメリットに言及し、その対策を示す。)
(3)プランの「導入前」と「導入後」の変化などを書く
【列挙型】
(1)理由(論点)1つめ
(2)理由(論点)2つめ
(3)理由(論点)3つめ
さっきの「原発の話」でいうと、「お金がかかる」という大きい理由を、「購入」「廃棄」「事故処理」の3つの論点に分けて【列挙型】で書いてあるということだな。
そういうことです。
「Introduction」の最後に、「ざっくりとした理由」にふれておいて、「Body」のほうでくわしく話していくのですね。
深掘り型の展開
【序論】
制服のジャージ化を提案する。ジャージのほうが、生徒の健康や、学力向上に貢献するからだ。
【本論】
(1)ジャージは、柔らかい素材で、伸縮性があり、動きやすく、制服よりも速乾性がある。
(2)今までの制服に比べると、式典のときなどにだらしなく見えるかもしれないが、ジャージをしっかり洗って、きちんと着ていれば問題ない。
(3)制服をジャージにすることで、災害があっても俊敏に逃げられる。汗もすぐに乾くので風邪をひきにくくなる。今までは緊張して受けていた講義も、リラックスして受講することができる。
【結論】
このように、ジャージは健康的で、積極的な学習をうながす。したがって、制服をジャージにするべきである。
【深掘り型】の書き方ですね。
本論(1)で「ジャージの特徴(メリット)」について述べて、
本論(2)で「既存の制服」と対比したうえで、ジャージの優位性を示し、
本論(3)で、「プランが導入されることでこんな変化がある」ということを述べています。
このように、【深掘り型】の「Body」は、「特徴」⇒「対比」⇒「変化」と展開していくことが基本です。
【列挙型】の展開
【序論】
お昼は吉野家の牛丼にしよう。美味しいものが食べたいが、今日はお金もないし、時間もないからだ。
【本論】
(1)吉野家の牛丼は味付けがうまい。
(2)吉野家の牛丼は価格が安い。
(3)吉野家の牛丼は提供がはやい。
【結論】
このように、吉野家はうまくて安くてはやい。したがって、お金もなくて時間もなく、それでも美味しいものが食べたいこんな日は、吉野家の牛丼を食べよう。
見事に【列挙型】の小論文になっているぞ。
それぞれのパラグラフの中身 Topic(説明) ⇒ Support(補足)
でも、「吉野家の牛丼は味付けがうまい。」だけで「1つのパラグラフ」にするのは、字数が足りてない気がするよね。
そうですね。
できれば、「うまい」の補足事項として、「どんなふうに味付けがうまいのか」についても書いておきたいですね。
また、「安い」の補足事項として、「実際にいくらなのか」を書きたいです。
さらに、「はやい」の補足事項として、「何分くらいで提供されるのか」を書いておきたいです。
うまい。甘辛いたれが絶妙だ。
安い。牛丼並盛400円だ。
はやい。平均して1分30秒で着丼する。
っていう感じかな。
イメージしやすくなったぞ!
とてもいいです。
このように、「Body」のパラグラフひとつひとつの中身は、先に「説明」をして、後ろに「補足」を足すという構造になります。
この「説明」と「補足」の関係を、「Topic」と「Support」と呼ぶこともあります。
なお、この「補足」の部分は、多くの場合「具体例(例示)」になります。そのため、前半と後半のあいだに、「たとえば」とか「実際」などという表現をおいて、「後半はいっそうくわしいですよ」ということがパッと見てわかるようになっているといいですね。
Bodyのパラグラフのひとつひとつの内部は、
Topic(説明) → Support(補足)
の順で書く。
「Body」にパラグラフが「3つ」ある場合、3つとも「説明⇒補足」になるということなんだな。
はい。「Body」に「3つのパラグラフ」があるのであれば、その3つとも、前半が「Topic」であり、後半が「Support」となっているのが普通です。
パラグラフの中身が、
(ⅰ)原子力発電よりも、風力発電のほうが燃料費がかからない。
(ⅱ)実際、A県の原子力発電所の年間の燃料費は〇〇円であるのに対して、B県の風力発電所の燃料費はゼロ円である。
なんていう感じになっているといいんだな。
そんなふうに、後半のほうに、「固有名詞」とか「実際のデータ」とかが出てきやすいですね。
「Body」のパラグラフの「ひとつひとつ」の中身について、「前半」よりも「後半」を、いっそう具体的にすることを意識しておくといいですね。
(ⅰ)病院で働く医療従事者は~
(ⅱ)たとえば、猫山動物病院のタヌキチ医師は~
となっていれば、(ⅰ)よりも(ⅱ)のほうが「いっそう具体的」になっていますよね。
「Body」は「複数のパラグラフに分けることが基本」ということと、「それぞれのパラグラフは後半でいっそう具体的にする」ということだな。
そういうことになりますね。
「500字以内」とか、字数が短い場合には、通常であれば3つに分けるパラグラフを「1つ」に限定して、最も説得力のある論点を選択して書きましょう。
Conclusion【結論】 手短にまとめる。
ここまで
序論 Introduction (紹介)
本論 Body (論拠)
結論 Conclusion (まとめ)
という「大きな3パート」に分けると言ってきましたが、この中で、最も「型どおり」に書くことができるのは、「まとめ」です。
「まとめ」の書き方で悩むのは時間の無駄ですから、いつも決まった形式で書いてしまいましょう。
〈まとめ〉の型
◆ 2つか3つの文で書くようにする。
(1)1つめの文には、「Body」の「Topic」の要点(キーワード)を集めて書く。
「このように、~」「以上のように、~」という書き出しが基本である。
(2)2つめの文には、「テーマと主張」を端的に書く。
「したがって、~」という書き出しが基本である。
(3)3つめの文は、字数に余裕があれば「展望」を語る。
(「展望」を語ることが難しい場合には書かない。)
(3)の「展望」というのは、「この意見のとおりになれば将来はこうなるぞ」ということを書くのですが、ここまで書くのはやや高度なので、入試レベルの小論文では、(1)(2)ができればOKです。
ただ、(1)も(2)も、最初のほうで一度書いていることになるので、まったく同じ表現の繰り返しにならないように気をつけましょう。
このように、小論文のまとめ方はある程度決まっている。したがって、あまり悩まずに型どおりに書くほうがよい。
使いこなしてる!
最後の段落については、今まで出てこなかった話が出てくることのほうが嫌がられますので、あまり盛り込みすぎずに、
このように、 ~ 。 したがって、 ~ 。
という2つの文で書いてしまえばいいですね。
おしゃれな文や渋い文にする必要はまったくありません。かっこいい言い方にしても、それが比喩っぽい表現だとかえって失点します。
まとめは、一読しただけで理解できる言い回しで、手短に終わりにしましょう。
このように、まとめの型を決めておいたほうが、形式で迷う必要がなくなり、そのぶん内容面を考える時間が増える。したがって、最後の段落はいつも同じように書くほうが、内容的によい論文を仕上げやすくなる。
使いこなしている!
おまけ Q. & A.
Bodyだけは複数に分けてよい。
複数のブロック(パラグラフ)に分けていいのは、「Body」だけなんだね。
原則的にはそのとおりです。
ただし、「Introduction」にかんしては、長くなるなら2つに分けてもいいです。2つまでならOKです。
たとえば、ある課題文に対する賛否を書く場合、まず最初の段落でその課題文の要約をします。それから、その要約に対して自分の意見を書くことになります。
その「要約」と「意見」は、別々のパラグラフになってもかまいません。ただし、パラグラフを分けるのであれば、漫然とわけるのではなく、「事実(要約)」と「意見(考え)」に分かれている必要があります。
大学入試などでは、この「事実(要約)」の部分は、そもそも違う設問にすることも多いですね。
ただ、なんかこう、「答えにくい問い」ってあるよね。
「日本の近代について」とか「大学について」とか、テーマが広い場合はどうすればいいんだ。
根本的には、小論文は「何らかの解決」を示すものです。
ですから、「解決が必要な前提」を発見して、それをテーマにするといいですね。
コツとしては、「困っていること」を見つけ出すといいですよ。
たとえば、「大学について」であれば、「新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、対面授業が行われていない」という「困っていること」がありますから、その中で有意義な学びを提供していくために大学がどうすべきかということについて論じることができます。
とはいえ、小論文の冒頭でいきなり「新型コロナウイルスが~」と書き始めるのは、テーマに対してあまりにも唐突ですから、
「大学とは、文献的学習、実験のみならず、人間同士の交流において、学びを深めていくための場である。しかし、現在その定義が揺らいでしまっている。新型コロナウイルスの感染拡大を防止するため、対面授業が行われていないからだ。
といったように、最初にテーマの語句を「定義」したうえで、現在の問題点に移っていくといいですね。
解決策を導き出せるような「問題点」が見当たらないテーマだったらどうすれば?
たとえば、「自由とは何かについて述べよ」とか。
事実 → 主張 → 根拠 → まとめ
という方針は崩しません。
「事実」って言われてもなあ。
「自由」の「事実」だと……。
ちょっと「何」を「言っている」のかわからねーぜ。
「すでにある意見」を「事実」とみなす手がありますよ。
たとえば、「自由とは何にも拘束されていない状態である」と一般的に思われているでしょう。
これに対して、「賛成」か「反対」をすれば、それが「主張」になります。
このように、「一般論」を前提にして、賛成か反対をしていくのが、典型的な方法ですね。
ちょっと上級者向けになると、哲学者とか学者などの著名な人が言っていたことを「前提」にして、賛成か反対をしていくという方法もあります。
その場合、「解決策」はどうすれば?
「自由とは何か」という問いに対して、「自由とは~である」と答える小論文の場合、「困っていること」に対しての「策」を出すものではありません。
ただ、「解釈が様々な難しい言葉」に対して、「その言葉はこういう意味です」という自分なりの「答え」を出すという点では、「自分なりの解釈」というものが、「解決策」と同じような役割を持ちますね。
「必ずこう書かなければならない」と決まっているわけではない。
本屋さんで売っている小論文の本を読むと、本によって言っていることがバラバラで、どう書いていいかわからなくなるぜ。
まったくだ。
大学で書くような「論文」ですと、一定の決まった書き方がありますが、「小論文」はその10分の1程度の「超圧縮版」ですからね。
その「圧縮の仕方」は、「こうでないといけない」と定まっているわけではありませんから、参考書によって「おすすめの構成」がバラバラになるのは仕方ありません。
その状況において、「おすすめの構成」はどうやって決めたんだ?
大学入試で高得点を取っていった受講生の答案を徹底的に平均化していくのです。
実際の入試だけではなくて、模試なども参考にします。年間100人くらいの答案を参考にしていくのですが、有用なデータになるまでは20年くらいかかりましたよ。
ふむ。少なくとも20歳は超えているということだな。
どちらかというと、2,000人くらいのデータを取ったんだなと言ってほしかったのですが、まあ、それはさておき、市販の参考書の中でも、特にIntroduction(序論)の書き方は様々ですね。「決まった書き方はない」と言い切ってもいいくらいです。
では先ほどの話に出てきた、入試で高得点を取っていった受講生が平均的にどんな書き方をしていたのかを教えて。
Introduction(序論)には、「主題(テーマ)」と「主張(意見・立場)」が必要です。その2つは必須だと考えておきましょう。
なお、「主張は小論文の最後にあればいい」という考え方もあります。たしかに「主張」はその考察における「ゴール」と言えますから、「その論文のエンディング」に明示されるべきです。
しかし、その「ゴール」が最初のほうにも書いてあったほうが、読者はその小論文がどこに向かうのか想定しながら読むことができます。そのほうが「解釈ストレス」が減りますね。最初に方向性がわかったほうが、Bodyを理解しながら読んでもらえるのでオトクです。
以上の理由で、「主張=ゴール」をIntroductionにズバッと書いてしまうことをおすすめします。
小論文の最初のほうにも最後のほうにも主張を書くということね。
そうです。双括型と言います。ハンバーガーみたいなイメージです。
さて、「Introduction」に主張まで書いたら、それで終わりでもいいのですが、さらに、「理由そのもの」を端的に示すか、「理由の数」を示すなどして、「理由(原因・論拠)」について何らかの言及をしておくといいですね。
Introductionで「理由」にふれないのであれば、「理由」は次の段落(Body)の最初に書きましょう。どちらの型であっても、「主張」の次に「理由」が書かれることが大切です。
「理由」が複数ある場合には、それぞれBodyで説明していくことになりますから、Introductionで詳しく説明する必要はありません。ただし、理由が複数あるのであれば、先に「理由の数」を示しておくと、読者が先の展開を予測しやすくなります。そのため、Introductionの最後に「理由は2つある。」とか「以下、3つの論点に分けて考察する。」などと、「理由(論点)の数」を示しておくことをおすすめします。
ふむ。
「まとめ」に「展望」まで書くのは無理しなくてよい。
最後に「展望」まで書くのはなかなか難しいね。
「展望」は、「案(主張)にしたがうとこれからこうなる」ということを書くわけだよね。
でも、「これからこうなる」を書きすぎちゃうと、「新しい話題」みたいになっちゃうんだよね。
なんかいろいろ書きすぎちゃって、赤ペン先生に「一貫性がない」と書かれてしまうんだ。
難しく感じるなら「書かない」で大丈夫です。
「展望」はあったほうがポジティブな印象があって、小論文のフィナーレがかっこよくなるんですけど、実際の入試の小論文の「設問」と「制限字数」の関係を見ていると、そこまで求めてきている課題はまずありません。
600字程度の制限字数で「展望」まで書こうとすると、かえって他の重要な論点が落ちてしまうことがあるので、「無理して書かない」という方針にしておくのがいいですね。
それに、たとえば、「死刑の是非について」などの「対立型」の論や、「文学は戦争の対義語たりうるか」といったような「意味づけ型」の論の場合、「未来に向けて何かを提案していく」というタイプの小論文になりませんから、「展望」の書きようがないのです。
以上の理由で、「展望」は、「解決策型の小論文」で、しかも「制限字数に余裕があるとき」にだけ書けばいいです。
ほっとした。
「Yes」or「No」が言える内容に
以前、赤ペン先生に、「結論に比喩を書いてはいけません」と書かれたんだ。
「比喩」は論文のどこにも書くべきではありませんが、結論については特にダメです。
論文というものは、「議論の対象」になるものなので、「次に議論する人たち」が、「賛成 or 反対」できるものでなければなりません。
たとえば「政治にがんばってほしい」「人命は尊重すべきだ」などの結論はNGです。「政治ががんばること」や「人命を尊重すること」は、いわば当たり前のことであって、〈Yes or No〉で議論する対象にならないからです。
ひとつ引用します。
argument(議論)で述べられる結論は、それに対して賛成派と反対派が議論を始められるものでなければなりません。たとえば、結論が「私にはわからない」であるなら、それに対して賛成派と反対派が議論を始めたら「私にはわからない」「いや、あなたにはわかる」の議論となり、ナンセンスです。
小野田博一『13歳からの論理ノート』
この引用で述べられているように、「まとめ」は、そのまとめに対して〈Yes or No〉の議論を始められるものでなけばならないのです。
多くの受験生が誤解していますが、優秀な論というのは、「反論の余地がまったくない主張」ではないのです。そこで議論が終わってしまうような主張は未熟です。
たとえば、前述の「政治」や「人命」の例で言えば、「政治はαについて予算を投入すべきである」とか、「人命はβの方法を用いて尊重すべきである」などとすれば、「いや、αではなく、γについて予算を出すべきだ」「いや、βではなくπの方法が有効だ」などと反論することができますね。
ポパーが言っていたやつだな。
そうです。
カール・ポパーは、科学の本質は「反証可能性」と言いました。「証拠さえあれば反対することがでるもの」こそが科学なのであって、「反論」を受け付けない意見は科学ではないのです。
たとえば、「悪魔は存在する」という意見は、科学的ではありません。それについて、〈Yes or No〉を科学的に(根拠をもって)述べることができないからです。
とにかく、「反対することがそもそもできない意見」は、小論文のまとめにはふさわしくないと考えましょう。
ふむ。
同じ理由で、「わかりきっていること」や「決まりきった事実」もだめです。
「太陽は東から昇る」とか「1600年に関ヶ原の戦いがあった」などといった決まりきった事実で論を終えるのもダメです。「いや、西から昇る」とか「いや、1600年に関ヶ原の戦いはなかった」とは言えないからです。決まりきった事実に反対することはできないので、そういう結論は未熟です。
逆を言えば、「出来事」でも、決まりきっていなければ主張になることがあります。たとえば、「本能寺の変を計画したのは明智光秀ではなかった」というのは、「決まりきった事実」ではありません。どちらかといえば、一般論とは異なるものです。こういうものは十分「主張」になります。
(ただし、「主張」する以上は、説得力のある「証拠」が必要です)
おれの誕生日は明日だ。
というのはどうだ?
え?
おめでとう!
決まりきっていることであれば、論文の主張にはなりません。
でも、もし「12月20日説」と「2月29日説」で意見が分かれているとして、最近「2月29日」の日付がある写真が出てきたとして、「したがって、2月29日である」などと主張することには価値があります。
いや、決まりきった事実として明日だ。
論文としての価値はありませんが、おめでとうございます。
「私たちは宇宙船地球号に乗る家族なのだから、地球にやさしくしよう」なんていうのもだめなんだな。
「小論文」としてはだめですね。
比喩的で、解釈を必要とするからです。
「地球にやさしく」という表現も、ポジティブなイメージはありますが、どうやさしくするのかが書かれていないから、賛成・反対が言えません。
反対をおそれてぼんやりしたことを書くより、きっぱり言い切って反対されたほうがいいのか。
そこが最大のポイントですね。
たくさんの受験生が誤解していますが、優秀な小論文は、「反論の余地がまったくない主張」ではないんです。そこで議論が終わってしまうような主張は、むしろ未熟だと思ったほうがいいですね。
もう、世界の半分くらいに反対されたほうがいいね。
反対を許さないより、そのほうがずっといいです。
たとえば囲碁部の部員たちが、「強くなるためにはどうすべきか」という議論をしようとして、ある一人が、「みんなでがんばれば行けるよ! がんばろうよ!」と言ったとします。それは議論ではなくて、感情の表明にすぎません。
「がんばろうよ!」だと、周囲の部員は、それに対して〈Yes or No〉を言うことができませんね。この場合、「朝6時から練習をしよう」とか、「対局のあとにじっくり感想戦をやろう」といったように、〈Yes or No〉の対象となる結論が必要です。
もちろん、日常生活で「がんばろう!」がいけないって意味ではありません。小論文には議論と無関係な感情を混ぜちゃいけないということです。
したがって、私は〇〇法案に賛成である。
なんていう「まとめ」は、あっさりしすぎていてあんまりよくないと思っていたけれど……。
「賛成である/反対である」という結論は、それに対して【Yes or No】を言うことができますから、十分論理的です。
時間が足りなくて困ったときは、結論を何も書かないよりは、「したがって、私は~に賛成である。」くらいは書いておいたほうがよいですね。
結論は「こう書こう」よりも「こう書いてはいけない」が大切
これまで見てきたように、Conclusion(結論)には、「こう書いてはいけない」という「忌避項目」があります。
「忌避項目」が多いぶんだけ、誰が書いても似たような形式になるのが「結論」です。
結論ではむしろ「個性」を出さないように注意しましょう。
先に話したこと以外にもいくつかありますので、最後にそれを箇条書きにしておきます。
論文中に「問い」の表現を書かなくていい場合も多い。
よく最初の段落は「問題提起」なんて書いてあるけど、「問題提起」はしなくていいのか?
「問題提起」というと、ついつい「我々はゴミ問題をどのように考えるべきだろうか。」というような「問い」の表現が必須であるように考えてしまうのですが、必ずしも「問い」の表現がなければならないわけではありません。
誤解がないように念押ししておくと、「小論文」に「問い」は必須です。「問いのない小論文」というものはありません。ただし、それが「表現」として表に出てくるかどうかは別問題です。
たとえば、社会問題になっていることなどをテーマとして書けば、「~だろうか」という表現にしなくても「問題提起」として機能していることになります。
そういう意味で、先に挙げたような
A.難しい社会問題
B.対立が起きている議論
C.意味づけが難しい言葉や現象
のどれかを「テーマ」として書く場合、「~だろうか」という表現が出てこなくてもOKです。
「~だろうか。」といった表現はなくてもいいということだね。
ケースバイケースですが、入試問題だと8割がた必要ありません。
どうしてかというと、「設問」があるからです。
「芸術とは何か述べよ」などという自由度の高い小論文は稀で、多くの場合は「課題文を読み、筆者の意見に反対の立場で論ぜよ。」とか、「課題文の状況下では、一般市民はどのように行動すべきだろうか。考えを示せ。」といったように、「設問」の段階でかなり規定されているのですね。
この「設問」の段階で、「○○は△△だろうか。」などと問われていれば、それがそのまま「問題提起」なわけですから、作成する小論文の中に、いちいちその問いを繰り返す必要はありません。
たしかにいらないな。
「問い」の表現がどうしても必要になる場合には、構成上は「主張」の前に置くことが自然です。「主張」よりも後ろに問いの表現がくることは避けましょう。
なるほどね。
「問い」の表現を明示しなくてもよいケース
①設問がそもそも問いである場合
設問を論文中で繰り返す必要はありません。
②何らかの主張(課題文)に対してYes or No の立場を取る場合
「賛成/反対」という主張をした時点で、「課題文の主張は正しいか」という問題提起であったことが自明となるため、わざわざ述べなくても問題ありません。
③社会的に見解が分かれているテーマにおいて、X or Y のどちらかの立場を取る場合
「x/y」の立場を取るという主張をした時点で、「どちらの立場を取るべきか」という問題提起であったことが自明となるため、わざわざ述べなくても問題ありません。
④何らかの言葉の解釈をする場合
たとえば「自由について述べよ」といった設問に答える場合、「自由とは不自由からの脱出である」などと定義した時点で、「自由とは何か」という問題提起であったことが自明となるため、「自由とはいったいなんだろうか」などという問いを書かなくても問題ありません。
多くの場合、小論文は、上記①②③④のケースに当てはまります。それゆえ、多くの場合、文章内に「問い」は不要となります。
書いても減点されるわけではありませんので、自身の論文内に「問い」を書いたほうが、表現上の収まりがよいと考えられる場合は、書いてもよいでしょう。ただし、その部分に加点はありません。
また、非常にまれなケースですが、設問の条件に、「適切な問いを立てたうえで」などの条件が付いている場合は、もちろん、論文内に問いを書くことになります。その場合は、「Introduction」の内部で、「主張」の前に示しておきましょう。