東大の現代文は、第一問の最終問題を除き、字数制限がありません。解答欄は13.4cm×2行です。ここに、けっこう大きめな文字で書くと、60字くらいで欄を使いきることになります。そのことから、多くの問題集・参考書では、60字程度の「解答例」を掲載しています。
ところが、ここに現実との差が生じてきます。なぜなら、実際の受験生に再現答案を書いてもらい、得点開示とつき合わせてみると、60字程度で書いた受験生よりも、70字程度まで書き込んできた受験生の方が、国語の点数が高い傾向があるからです。
古文漢文の答案にほぼ変わりがない受験生同士で比較すると、「平均60字解答者」と「平均70字解答者」とのあいだでは、4、5点くらいの差が生まれています(文科120点満点参考)。
各予備校の講師たちの言によれば、「たくさん書き込んだほうがいい」とする方々と、「端的にコンパクトに書いたほうがいい」とする方々が真っ二つに分かれている状態です。これは、どちらかが正しく、どちらかが間違っているというものではありません。「現実的な策として得点になる答案を書く」立場と、「理想の答案を追い求める」立場の違いです。
「たくさん書き込む派」は、答案の大部分に本文中の語句を使用します。主語ー目的語ー述語といった、「論理の流れ」を示すことを重要視するので、結果的に字数を多く使用します。
「端的にコンパクト派」は、本文中にはない語句(いわゆる「自分のことば」)も駆使して、「要するに」が伝わりやすい答案を目指します。
たとえば、課題文に、次のように書かれていたとします。
冬に桜が満開になる可能性は否定できないが、実際にそういった現象が起こるかどうかと言われれば、その確実性は低いと言わざるをえない。
この課題文をもとに、以下のように説明することは、どちらも間違いではありません。
〈解答例①〉は、本文の語句を採用しています。〈解答例②〉は、「蓋然性」という、本文にはない言葉を登場させて「端的に」言い換えています。「蓋然性」の意味は、「ある現象が実際に起こる確実性の度合い」のことですから、①と②は「意味内容」としては「同義」です。同程度の客観性をもった説明表現が、意味内容として同義なのであれば、得点は同じです。
東大の解答欄の話に戻ります。
解答欄のスペースを考慮すると、最終的に理想とされるのは②の答案です。本文にはない語句までも駆使して、「端的に」表現しつつも、情報量を落とさずに書かれた答案は、評価が高いでしょう。
しかし、制限時間の中で、①を②のように「変質」できる受験生はなかなかいません。なにしろ相当の語彙力が必要ですから。むしろ、「変質」に失敗して、「意味内容」が本文から遠ざかってしまうと、ごっそり失点してしまう危険があります。
そこで、多くの受験生は、極力本文中の語句を使用することになるのですが、今度は逆に、本文中の語句を中心として、必要な情報量を落とさない答案を構成しようとすると、どうしても字数が長くなってしまいます。そこで、「冗長なひらがな」とか「論理関係としては重要度の低い程度表現」などを削っていくと、なんとか70字程度に落ち着く、といった経緯をとることになります。
まとめます。
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