〈自分のことば〉の必要性

国公立大学の合格者の再現答案と得点開示をつき合わせていくと、課題文に根拠が見当たらない論点をやみくもに作文している答案は、ほとんど点数になっていません。

そのような答案との比較で言えば、「課題文中の語句をつなぎ合わせる作業」を特化している答案のほうが高い得点になっていますし、実際に合格しているケースが多くなります。

しかし、最終的に「本当の高得点」を取っている答案は、答案の3分の1程度に、課題文中には見当たらない表現が使用されています。もちろんそれは「無根拠な作文」ではなく、課題文中に情報として書かれているものの、そのまま抜き出すと抽象的すぎて意味不明瞭なところを、自身の語彙力で客観的表現に書き直しているものです。

東大文科で言えば、「本文語句のつなぎ合わせのみの答案」が、だいたい70/120点に落ち着くのに対し、80点を超えてくる答案は、「答案の3分の1程度に自身の語彙力による再編集の痕跡がある答案」であると言えます。

その事実から考えると、高得点のためには、答案の3分の2くらいまでは課題文の語句を使用できるとして、3分の1くらいは、〈自分のことば〉にせざるを得ない箇所があるのだと言えます。

〈自分のことば〉にすべきパターンは、以下の4つです。

① 圧縮(冗漫な表現が課題文中でそのままにされている)
② 一般化(列挙されているものをまとめた表現が課題文中に書かれていない)
③ 比喩解読(たとえられている実態が課題文中に書かれていない)
④ 難語の辞書的換言(傍線部内の難語の意味内容が課題文中に書かれていない)

通常、傍線部内に「熟語」がある場合、その熟語の辞書的な意味を問うているのではなく、その課題文中におけるどの論点が、その熟語のように言えるのかということを問うているので、傍線部外の部分からそれを見つけ出し、答案に書き込めばいいことになります。さらに、字数に余裕があるのであれば、その熟語を辞書的意味に換言してまとめたほうが、いっそうわかりやすい説明になることはたしかです。
(辞書における「見出し語」とその「語義」の関係では、まさに「見出し語」をわかりやすくしたものが「語義」なのですから、「見出し語」に傍線が引かれているのであれば、答案にはその「語義」を書くほうが、一般的にわかりやすくなります。)

理想論としては上記のとおりなのですが、たとえば東大の解答欄にはそこまで書き込める余裕がなかなかないのも事実であるため、優先的に「課題文での該当箇所」を拾ってくるほうに注力することが多くなります。対して、京大の解答欄は余裕をもって書き込めるので、語義にも気を配って丁寧に説明するほうが得点化しやすくなります。