白桃

問1

(ア)正解は④

「心得る」から連想しよう。「訳知り顔」は「事情を理解している顔」ということである。

(イ)正解は②

「のっぴきならない」は「退っ引きならない」と書く。「退くことも引くこともできない」ということから、「どうしようもない」の意味になる。

(ウ)正解は⑤

「たたずまい」は「佇まい」と書く。「雰囲気・様子・風情」を意味する言葉で、人物や建築物などに用いる。「様子」に最も近い選択肢としては⑤の「ありさま」が適当。

①の「けはい」も迷うが、「気配」は感じるものであり、「たたずまい」の辞書的意味にもない。文脈で判断しても、傍線部(ウ)の直前から考えると、「夜の月が露わにしたこの異様な世界たたずまい」とあり、「異様な世界」は実際に目の前に表れているものであることがわかる。

したがって、目の前に表れていないものに対して感じるものである「気配」よりも、見たままの「様子」を意味するものである「ありさま」のほうが、文脈にはあっている。

問2 正解は④

弟の心情を問うているが、正解の構文としては「兄との対比」の要素が入ってくるはずである。

傍線部の直前には「兄がおとなっぽく映った」とあり、それに対して、「自分ひとりが乳飲み児のように道理をわきまえない子供」と感じているからである。

兄 = おとな 道理をわきまえている
弟 = 子供 道理をわきまえない

という対比をおさえていることが大切!

では、「兄」はどういう点で「道理をわきまえている」のか? ――それは、「お金をもらったら帰る」というセリフに表れている。

兄は、任務を遂行しようとしているのである。

一方、

弟は、桃に目がくらんでいるのである。

別に、出された桃を食べてしまったら、お金をもらえないというわけではありません。

「これ食って帰りな。坊や」と言われているわけではないのですから。

しかし、不穏な空気を感じ取っている兄は、「うかつに手を出さないほうがよいだろう」と判断したのですね。

ところが弟は、「でも食べたい!」と思っており、だからこそ平然とはしていられないのですね。

傍線部の直後では、兄に対して「どうして平然とおちつきはらっていられるのだろう」という疑問を持っているが、それは裏を返せば、「自分は平然としていられない」という心情を表していると言える。

また、正解の構文としては、「桃」に対する何らかの言及がされているべきです。

〈小説的小道具〉
(a)小説内の物体・風景に「対して」登場人物が何かを感じている。
(b)小説内の物体・風景が、登場人物の心情を暗示している。
                  (心情の象徴となっている)

傍線部に強くかかわるところに「小説的小道具」がある場合、その話題に触れていない選択肢が正解になる可能性は低い。

以上のことから、

◆ 兄(おとな) ⇔ 自分(子供)の対比
◆ 桃への言及

が論点として取り上げられる。

〈記述想定答案〉
桃を前にしても毅然とし、金を受け取るという役割を優先視している兄に対し、自分は桃に魅了されてまごつき、大人の態度をとれていないことに、怒りを覚えている(という心情)。

想定答案に最も近いのは〈選択肢④〉である。論点が2つともきちんと入っており、理想的な正解である。④の結論部「いまいましく思っている」というのは、傍線部内の結論である「肚だたしくもあった」の言い換えとして適当である。

不正解の判断基準

① 

「桃」にまったく言及していない点で〈核心不在〉である。

また、「米が売れそうにない不安」が、この傍線部の時点では書かれていない。「なにかあったのかな」とは思っているが、「売れそうにもない」とまで思っている描写はない。

② 

「桃」にまったく言及していない点で〈核心不在〉である。

すべての選択肢で「桃」を無視していれば別ですが、この設問では③④⑤はきちんと「桃」の話題に触れています。

こういう場合に①②が正解になる可能性はきわめて低いです。

また「卑怯」とまで思っている描写はない。〈根拠なし〉で×。

「桃を食べることが絶望的になり」が〈話題なし〉である。

また、「桃を食べられないから兄に帰ろうと言った」という因果関係は認められない。

また、「周囲から~幼稚だと思われてしまい」も因果関係不成立。「周囲から」→「幼稚に思われる」いうつながりではなく、「自分が、自分に対して、【幼稚だ】と、ふと思った」という文脈になる。この場合の「思われ」の「れ」は受身ではなく自発であり、「自然とそう思った」という意味である。

「感情を表に出さない」ことが「おとなっぽい」ことの理由なのではない。弟の目から兄が「おとなっぽく」映った理由は、「お金をもらったら帰る」の発言にある。つまり「道理」とは、ここでは「任務を最優先にする」ということであり、弟はその意識がどこかへ薄れてしまうほど、桃に注意が向いてしまっている、という文脈である。〈選択肢⑤〉は、そのことに言及されていない。

〈選択肢⑤〉は、①②とは逆に、「桃」についてしか述べられていないのである。

また、「肚だたしい」の言い換えとして「嫌悪」は「言い過ぎ」である。「腹が立つこと」と「嫌悪」することは、程度にギャップがある。

問3 正解は⑤ 

ここでの「行為」は主に「セリフ」である。傍線部(B)周辺のセリフを行為と考えて、きっかけと「店の主人の心情」をつないでいこう。

(きっかけ)上等の米を頼んだのに、屑米と糠がたっぷり混ぜてあった
       ↓
(心情)  【ズバリとは特に書かれていない(セリフから推論)】
       ↓
(行為)  テーブルをたたいた
      どさりと風呂敷包みを投げ出す
     「わしはそこいらのちんぴらとはちがうんだよ」
     「これがつかえるかい」
     「あんまりみくびってもらいたくないもんだ」
     「昔は社長のお世話になったさ。だけど恩返しはしたつもりだ」
     「社長ともあろう方がこんなけちなペテンをなさるとは残念なんだ」

「店の主人」は、昔は「社長(おやじさん)」に世話になっていた立場であるため、社長に対し、「社長ともあろう方」というような、「もちあげるような表現」を使っている。つまり、敬意の対象者が、すぐにわかってしまうようなつまらない詐欺をおこなうようになってしまった「変化」に、店の主人はやり場のない怒りを感じているのだと解釈できる。

〈記述想定答案〉
恩は返したはずの自分をだまそうとしたことに怒りを抱くとともに、かつて世話になったほどの社長が程度の低いごまかしをしてきたことを、情けなく思う心情。

正解の〈選択肢⑤〉には、「以前はこんなことをする人ではなかったというやりきれない思い」と説明されている。また、「わしはちんぴらとはちがう」「みくびってもらいたくない」というセリフは、「低く見られているのかと怒り」と説明されている。

「以前はこんなことをする人ではなかった」という部分は本文根拠が薄いのですが、他の選択肢が「もっと×」なので、相対的にみて⑤が正解になります。

不正解の判断基準

「かつては社長とも対等で」が〈話題なし〉である。「お世話になっていた」と述べられていることからも、〈本文と矛盾〉とも言える。

「自分に重なり」が〈話題なし〉である。あくまで対象は「社長が変わってしまったこと」であり、自分に重ねているわけではない。

「改心してほしいと願っている」が〈話題なし〉である。

また「多少の悪事もやむをえない時代」が因果関係不成立(主語と述語のつながりのミス)である。そう思っているのは「客の一人」であり、「店の主人」ではない。

「何かとお世話をしてやっていて」が〈言いすぎ〉である。「主人」は「社長(おやじさん)」に対して、(おそらくそのお店で飲んだ)酒代を催促しないなど、「恩返しはした」と思っているが、かつてと逆の立場といえるほどの「お世話」をしている描写はない。

ただし、この選択肢は、①②③に比べれば悪くない選択肢で、最も迷うものだと思います。

問4 正解は③

難問である。最大のポイントは直前の「弱々しい兄」。傍線部は兄のセリフなので、兄の心情を探ってみよう。

(きっかけ)米の質が粗悪だったため、買ってもらえなかった
(心情)  【特に書かれていない(文脈から類推)】
(セリフ) どうしよう(弱々しい口調)
       ↓↓↓
(きっかけ)弟「仕方がないさ」
(心情)  【特に書かれていない(文脈から類推)】
(セリフ) がっかりしたな。
      皆ぼくたちを見てたぜ、
      まあ何だな、出された桃は食べなかったしさ。

周辺に「兄」の心情はほとんど書かれていない。唯一ストレートに書かれているのが「弱々しい」という様子である。この「弱々しい」が何らかのかたちで入っている選択肢が正解候補。

正解の〈選択肢③〉には、「自分を支えようとしている」という表現がある。これは一見、ストレートには「弱々しい」が入っていないように思われるが、「支えようとしている」ということは、その前提として、「倒れそうになっている」ということである。つまり、「支えようとしている」という言葉の前提条件には、「精神的に倒れそうになっている自分」が含まれているのであり、その意味で、「弱々しい」が含まれている選択肢であると判断できる。

傍線部は、「まあ何だな~」から引かれているが、「まあ」が直前の論点を引きずっているので、「がっかりした」「皆僕たちを見てた」という表現も、「まあ」が含みこむものとして無視できない。その点で、〈選択肢③〉の「屈辱感」という説明は、「がっかり」「皆見てた」から読み取れるものとして適当である。

〈記述想定答案〉
なじられたうえ米の取引を断られ、兄はどうしたらよいかわからず気弱になっているが、施しを受けるようなまねはしないで済んだと思うことで、落ち込みを回復させようとしている心情。

不正解の判断基準

「桃に手を出さなかったこと~兄としての立場を回復」が因果関係不成立。自分だけ桃を食べなかったのであれば、弟に対しての立場は保てるだろうが、実際には弟も食べていないので、そのことで「兄としての立場」が回復されるとは考えられない。

また、「面目をつぶされた」が〈言いすぎ〉である。米に粗悪品を混ぜていたのは父親なので、その件で「兄」としての面目は損なわれない。

② 

「せめて弟に確認」が読み取れない。兄が「どうしよう」と思っていることは、「お金を得られなかった」ことに対しての思いであり、「桃を食べなかったことが正しかったかどうか」をいまさらくよくよ悩んでいるわけではない。そのため「出された桃を食べなかったこと」は、「正しかったかどうか弟に確認しないとわからない」というものではない。「出された桃を食べなかったこと」は、兄にとって、確認を取るまでもなく正しかったことなのである。

この兄弟は、米と金銭の「取引」に来ていたわけだから、桃をバクバク食べてしまっていたら、「単なる子どものお使い」になってしまう。スムーズに事が運べば食べていたかもしれないが、不穏な空気を察知した兄弟は、「子どもの使い」とみなされないために(つまり「大人扱い」されるために)、桃に手を出さなかったのである。その態度を周囲に見せることができた、という文脈になっているのだ。

いずれにせよ、この選択肢は、「皆見てた」に該当する論点が無視されているので、傍線部内の「まあ」を回収していることにはならない。

「こんなことなら桃を食べればよかった」が〈話題なし〉で×。

また③と同様に、「皆見てた」に対応する文意がない。

「がっかりしたな」が無視されている。これではかなり強気な心情になってしまう。

問5 正解は①

「本文を通して見いだせる兄と弟の違い」を聞いてきているので、傍線部問題ではあるが、全体把握の設問になっている。消去法で考えよう。

適当である。本文との相違はない。

「ささいなことに楽しみを見いだす」が「根拠なし」である。

また「兄は自分の感情に振り回され」が決定的に不適である。むしろ感情を抑制して兄らしく行動しようとしている。後半にかぎっていえば、子どもらしい無邪気な面も出てくるが、感情に振り回されているとまでは言えない。

「無心」が不適。「桃」に対して葛藤する様子などは、決して無心ではない。

また、「大人の立場で厳密に」も言い過ぎ。選択肢②の逆方向になる言い過ぎである。酒場では確かに兄として振る舞っているが、後半は無邪気な側面も見せている。

「意味や象徴性を読み取ろうとする」が言いすぎ。そこまで深い世界観を持っているとは考えられない。

また、弟は「見えないもの」に意味を見出し、兄は「見えるもの」に思いをめぐらす、というような区別的な文脈はない。〈話題なし〉である。

「素直に楽しんでいる」が不適。弟は、「桃」に対しては葛藤しているし、最後の場面では「兄」に対しての「感覚のズレ」に思いをめぐらしている。けっこう考えているのだ。

また、「兄は今を見失いがち」も不適。兄は「今」にきちんと立ち向かっているからこそ、「不安」や「いらだち」を抱えてしまうのである。

問6 正解は②

「適当でないもの」なので間違えないように! 消去法で考えていこう。

適当。木犀を探している一時の様子は、兄弟ともに無邪気で楽しそうである。

「木犀は~薬代のかわりになる」が話題なし。

また、結局木犀には辿り着けなかったのであるから、「手に入る実感」もおかしい。

適当。

結局木犀は見つからなく、兄はいらだつ。弟はそこに距離を感じるという描写が最後にある。

適当。

一時的には兄弟は「木犀を探す」という共通の目的を得て、一体感を得ている。

適当。

本文は、前半が大人の社会、後半が子どもらしい社会、という構造になっている。