僕はかぐや姫

問1

(ア) ①

「身の丈に合う」は、「自分の能力や感性にふさわしい」という意味。

(イ) ③

「おずおず」は、「怖ず怖ず」と書く。「ためらいながらおそるおそるする様子」を意味する副詞。

(ウ) ⑤

「一矢を報いる」は、「わずかではあっても反撃する」の意味。

問2 ①

「やっぱり」ということは、それまでの態度などから推論していた〈尚子のイメージ〉が、〈セリフの内容〉と合っていたということです。

〈セリフ〉に対する具体的な感想は述べられていないので、〈それまでの尚子の態度〉から正解を導くしかない問題です。「先輩たち」との対比を考えると、正解は〈選択肢①〉です。

〈選択肢①〉の後半、

自分の感性や意思を大事にする人だと納得した

という説明は、一見すると、本文にきっぱり対応するところがない「深読み」のように思えます。しかしこれは、正解として許容できるレベルであり、他の選択肢が「もっと×」なのであれば、十分正解として認められます。

これは、選択肢問題ではよく目にする「対比の内容を逆利用した説明」だと言えます。

対比の内容を逆利用した説明

(本文) Aはaである。しかし、Bはそうではない。
            ↓
(説明) Bは、a(a)である。

たとえば……

(本文) Aは純粋である。一方、Bはそうではない。
              ↓
(説明) Bは不純である。

以上のように、対比されている内容を利用して、「反対側」の説明を果たすことは可能です。

この小説のこの場面では、「先輩たち」と「尚子」は対比的に描かれています。

たとえば、

先輩の大人びた言葉よりはずっと尚子の言葉が身の丈に合っていた。

などと書かれています。この対比を逆利用すると、

尚子の言葉は大人びていない。

と表現することができます。

さらに、「身の丈に合っていた」という表現もヒントにすると、

尚子の言葉は、大人ぶって背伸びをするようなものではなく、等身大のものである。

などと説明することもできます。

さて、先輩たちの特徴をもう少し点検すると、「膨大な知識」「醒めた思想」といった表現が冒頭部分に存在します。

このことは、〈選択肢②〉が不正解になる根拠にもなります。

この「知識」「思想」といった語に着眼してみましょう。この「知識」や「思想」といった「先輩たち」の特性と対比的に語られているのが尚子なのですから、「知識」「思想」とは区別される尚子の特質に、裕生は魅力を感じていると読むことができます。

以上のように考えると、〈選択肢①〉における、「感性・意思」は、まさに「知識・思想」とは対比されるものとして書かれていることになります。

選択肢分析

後半の書き方が、一見すると「深読み」のようにみえ、自信をもって〇にしにくい選択肢ではありますが、解釈は成り立ちますし、他の選択肢が「もっと×」なので、これが正解です。

「大人びた」「醒めた」といった性質は、「先輩たち」のほうの特徴なので×です。

「協調したりせず」とあるが、談義に加わっているのであるから、協調しないというのは「言い過ぎ」です。

また、「天衣無縫(飾り気がなくありのままの性格)」という表現もやや言い過ぎです。

決定的な×をつけられる部分はありませんが、「言い過ぎ」とみなせるところが2カ所ありますので、〈選択肢①〉に比べると劣ります。

「批判的」とありますが、先輩の意見を批判しているわけではないので「言い過ぎ」です。「話題なし(根拠なし)」と考えることもできます。

「超然(ある範囲を抜け出ているようす)」も「言い過ぎ」です。

「他人とのつきあいを極力避けて」とありますが、「言い過ぎ」あるいは「話題なし」で×です。

他人とのつきあいを極力避けるのであれば、そもそも談義に加わらないでしょう。

問3 ④

 A かぐや姫が羨ましかった。
 B 自分を取り巻いている存在や思惑がうっとうしい。

といった本文情報から、「かぐや姫が、〈周囲の存在から離れることができた〉ことに心を打たれたのである」と読解することができる。

「月」という〈小説的小道具〉を、「うっとうしい存在から離れることができる場所」と解釈しているのは〈選択肢②・④〉であり、この2つに絞ることができます。

〈小説的小道具〉というのは、「登場人物の心情などを投影しているもの」と解釈できる「物体」「風景」などです。

実際の作者の意図はわかりませんが、「出題者」が「この物体(風景)に登場人物の心情が投影されているように見える」と判断すれば、その「物体(風景)」にまつわる問題は作られます。

傍線部内(または近隣)に〈小説的小道具〉が存在する場合、正解の選択肢は、

a.それに対する心情
b.それが象徴している(暗示している)心情

のどちらかの論点を持っている必要があります。

選択肢分析

「生まれ故郷」が「心情の誤り」で×です。

故郷に帰ることを羨ましがったのではありません。

「多くの立派な地位の人たちに求婚されながらも」という情報が本文にありません。

「かぐや姫」の話を「知っている」と、こういった選択肢に引きずられがちなのですが、本文に話題として出てこないことが正解になることはありません。

その点では、正解の〈選択肢④〉にある「人間界のしきたりや煩わしい人間関係から離れて」という説明も「かぐや姫のお話を知っているから書ける」ものではありますが、傍線部直後の「うっとうしくてたまらず」という心情から推論すれば、ぎりぎり解釈可能です。

後半の「孤独」は、一見するとよさそうですが、「かぐや」は、「人間界で最初から最後まで孤独」だったわけではなく、「月に帰ること」によって「人間界からの隔絶」を手にするのですから、「最後まで孤独を貫く」と書いてしまうと、本文とのギャップができてしまいます。

また、他の選択肢に比べ、「月」という象徴物〈小説的小道具〉への言及がありません。つまり、「ここを設問にした意味」が反映されていない選択肢になっています。

「魂の純粋さ」が、周辺の話題にありません。

また、〈選択肢②〉と同様、「月」という象徴物〈小説的小道具〉への言及がありません。

前述したように、前半が推論的ではあるが、比較的マシなのでこれが正解です。

「月」に対する解釈も施されています。

前半も後半も文中根拠がありません。

〈問4〉 ⑤

まずは、傍線部の主語(≒主題)が「ふたり」であることを強く認識しておきましょう。

「裕生だけの心情」「尚子だけの心情」を主題した選択肢は正解になりません。

その観点で傍線部以降を読んでいくと、「ありがちな自己陶酔のうねり」「高潔な魂を気取る虚飾の顫動」とを「同時に認めていた」とあるので、「二人が同時に感じていた心理的内容」が語られていくことがわかります。

ただし、「うねり」とか「虚飾の顫動」といった比喩的な表現はそのままでは使用できませんし、何よりも何を言っているのかわからないので、まだまだ先を読んでいかなければなりません。「意味不明ならどんどん先を読む」ことが鉄則です。

意味不明なところで立ち止まらず、「なんとなくわかる」ところまで先へ先へ進む。
少なくとも、「解答に使えそうな言葉」が出てくるまでは読み進める。

という態度で臨みましょう。

そうすると、

まるで転んだだけで大声をあげて泣き叫びおとなの庇護を要求する幼児のような浅ましさを相手に中に、そして自分の中に見いだした。

と表現されています。

「ような」の直後には常に注目しましょう。「比喩表現を用いてまで言いたかったこと」が、そこに存在しやすいからです。

ここでは、「浅ましさ」がそれにあたります。記述問題であれば、「浅ましさ」は、ぜひ答案に書き込みたいことばです。

もう少し見ていくと、次の次の段落に、

取り繕うのはお前の役目だと言わんばかりの沈黙にどっぷりつかりながら、自分たちが平凡きわまりないひとりの餓鬼だと思い知らないわけにはいかなかった。

と表現されています。

「沈黙」は、傍線部内の「黙り込んだ」の言い換えなのですから、このあたりも重要な箇所であると判断できます。「餓鬼」とは、先ほど出てきた「幼児」の書き換えであるといえるので、そうすると「幼い」という要素は、二回述べられたことになります。

したがって、これがもし記述問題であるならば、「幼さ」と「浅ましさ」は、ぜひ解答に書き込んでおきたいところです。

さて、正解の〈選択肢⑤〉には「考えの甘さ」という表現が出てきます。まさにこれが、「幼さ」や「浅ましさ」をまとめた表現であるといえます。⑤が正解です。

選択肢分析

決定的なキズはつけにくい選択肢ですが、「同じ作品の文学作品に興味」という言説が、傍線部周辺で語られている話題に比べ、あまりにもレベルが違います。

また後半の、「お互いに相手の考え方や感じ方がわかりすぎる」という内容は合っていますが、「幼児」「浅ましさ」「餓鬼」といった、「マイナスの感情」にまったくふみこんでいません。

つまりこの選択肢は、「状況」にまでは言及していますが、その「心情」にまでは手が届いていないのです。

ここでの「なぜか?」は、心情を答えるものなので、状況だけを答えても正解にはなりません。つまり、〈選択肢①〉は総合的に見て「核心が足りない」といえます。

「実現できないことだとお互いにわかった」が、「事実のミス」です。

「実現できないことがわかった」という描写はないので、×とまではいえませんが、△にはなります。

また後半の「夢」が比喩的であり、説明不十分です。ここも△です。

③ 

「すべてを了解し得ない」が逆です。

尚子と裕生は、少なくともこの場面では、お互いのことが「わかりすぎている」がゆえに黙ったのです。

「高潔で」が×です。

本文には「高潔を気取る」とあるので、「ふり」なのです。それをお互いが見透かしているから、二人は黙り込んだのだと考えられます。

「すばらしい解答」とまでは言えませんが、「ここがダメ」という箇所がないので、「他の選択肢よりもよい」という観点で正解とします。

繰り返しになりますが、文中のキーフレーズである「浅ましさ」に言及しているのは〈選択肢⑤〉だけです。

〈問5〉 ③

後半だけで正解が出てしまうので、前半は検討する必要がありません。

「女らしく」「優等生らしく」「人間らしく」といった、あらゆる「らしさ」から自由になるための「僕」という呼び方なのですから、〈選択肢③〉が正解になります。

本文中の「らしさのすべて」「社会通念」という熟語に書き換えています。

選択肢分析

女性的な存在」は、むしろ「らしさ」を持ってしまいます。

「周りの人より優れた存在」は、むしろ「らしさ」を持ってしまいます。

正解です。

男性社会へより接近したい」は、むしろ「らしさ」を持ってしまいます。

「公的な場で相手との距離を置きたい」は、〈傍線部E〉の周辺の話題にはありません。

後半から対比的に前半を遡ると、やはり〈選択肢③〉の説明が最もよいですね。

「あたし」は、社会における「らしさ」を身につけ、「周囲と調和していくため」の一人称なのです。

〈問6〉 ②・③

全体にかかわる問題なので、消去法で外しましょう。

選択肢分析

「両極端に揺れ動きがち」が、裕生の人物像と異なります。

OK! 正解です。

OK! 正解です。

「観念的」な言葉が多用されることで、登場人物の心の動きが「具体的」に描き出されている、という言い回しは、「観念」と「具体」が決定的に矛盾していて、説明のつじつまが合いません。

「女性であることにこだわっている裕生と尚子」が本文と矛盾します。

少なくとも裕生は、女性というカテゴリーから距離をとることにこだわっています。

「……」が使用されることで、「二人が親交を深めていく様子」が「細やかに」写し出されている、というのは、論理関係に無理があります。

「細やかに」写し出すのであれば、「……」ではなく、何かしら書くべきです。何も言っていない「……」によって、何らかの様子が細やかに描かれるというのは、矛盾しています。

もしも、「あえて細かく描写せず、読者に想像を促している」などと説明するのであれば、整合性はあります。しかしそう説明するのであっても、本文の後半では尚子と裕生の間には距離ができていくので、「徐々に親交を深めていく」という説明は、本文の序盤にしかあてはまりません。