児童向けの文庫の中では、「講談社青い鳥文庫」がとてもよいです。
優れた文学作品が多く出版されていることが第一の理由ですが、「ほぼすべての漢字に読み仮名がついている」という点が、二つ目の大きな理由です。
学校教育の場合、「教育漢字」という縛りがあるので、その学齢で教わる漢字以外はひらがなにしてしまう場合が多くなります。すると、たとえば「途中」を「と中」と表記したり、「魅力」を「み力」と表記するようなことが起こります。もちろん、児童本人が書く場合はそれで問題ありませんが、「読み」は別です。
児童の学習過程において、「読めない漢字を書けるようになる」という現象はまず起こりません。「書けるようになる」ためには、その前提として「読めるようになる」ことが必要です。
たとえば「水」は1年生で習う漢字であり、「泳」は3年生で習う漢字ですから、2年生のテキストでは「水泳」が「水えい」と表記されることがあります。しかし、そもそも「読み」と「書き」を同じタイミングで学ぶことに無理があるのです。したがって、2年生の段階では、「水泳」という表記に振り仮名をつければよいだけのことです。
原田種成先生の著書から引用します。
筆者の子供たちも、中学生や高校生のとき文庫本を読んでいた。何を読んでいるのかと、のぞいてみると、中高生には読めないと思うような難しい字にも、ほとんど振り仮名(印刷用語ではルビという)がついていない。読めない字はどうしているのか、と聞いてみると、いいかげんに読んでいるか、飛ばしているという。まことに驚くべきことである。筆者自身の子供のころを想起してみるに、当時は、新聞をはじめ一般の読物には、すべて振り仮名がついていた。だから、振り仮名を頼りに新聞を読み立川文庫などを読みあさり、言葉や漢字を自然に覚えたものである。それに反して、今の子供たちは、本に振り仮名がついていないから、読めない漢字は飛ばして読んだり、でたらめに読み、易しい漢字も、その正しい読み方を知る機会が全くないのである。ここにもまた、戦後における国語の混乱の大きな原因がある。
原田種成『漢字の常識』
1982年に刊行された本での指摘です。しかし、残念ながら、現今の日本では、まだ「と中」「み力」といったような表記が常態化しています。
学校のテキストがそうなっている以上、児童自身が「たくさんの漢字の読みに慣れておく」ということが必要になります。その点で、「総ルビ」の児童書の存在は大きな学習効果があります。
「講談社青い鳥文庫」は、すべての漢字に振り仮名をつけており、熟語の半分をひらがなにするという形式にはなっていません。内容的にも名作が多いので、小学生のうちにぜひ手に取ってほしいシリーズです。
「破綻」などは、よく使う熟語であるにもかかわらず、「綻」が常用漢字でないという理由で、新聞でも「破たん」と表記されますね。