熱中、熱中、脇目もふらない懸命さ、ということが好きである。
下の子が三歳で、ハサミを使い始めたばかりの頃のことである。晩秋の夕ぐれのことで部屋はもううす暗かった。四畳半の部屋中に新聞紙の切りくずが散乱し、もう随分長いこと、シャキシャキというハサミを使う音ばかりがしていた。下の子は、切りくずの中に埋まって、指先だけでなく身体ごとハサミを使っていた。道具ではなくて、ハサミが身体の一部のようにも見えた。自分のたてるハサミの音のリズムといっしょに呼吸しながら、ただただ一心に紙を切っているのである。呼んでも振り向く様子ではなかった。熱中。胸を衝かれた。私は黙って障子を閉めることにした。夕飯は遅らせていい。
このようなことは、日常の突出点などでは決してなく、むしろ子供にとってはあたりまえのことなのではないだろうか。大人の個が、それを見過ごしているのである。大人たちは、子供の熱中して遊ぶ姿にふと気づくことがある。そして胸を衝かれたりもするのである。

「なぜか」については、次のような傾向があります。
(1)述語が「現象(特に自然現象)」であれば「原因・きっかけ」が問われている。
(2)述語が「行為(特に意識的行為)」であれば「意図・目的」が問われている。
(3)設問が「いえるのはなぜか」という問い方であれば「判断材料・論拠」が問われている。

このうちの2つを同時に問うこともあります。
現代文の問題でいうと、(1)のみを問う設問はあまり多くないです。字数の長い問題になってくると、(1+2)あるいは(1+3)というように複合的に問われることがあります。

ああ~。
たしかにこの問題も、「息子が夢中で一人遊びをしていて、胸をその姿に胸を衝かれたから」という「きっかけ」があるけれども、それだけだと答案としては弱い気がするね。

たしかに、「息子の姿に胸を衝かれたから」というのは、答案において言及しておいたほうがいい「前提」になるけれど、「黙って障子を閉めた」というのは「明らかに意図的なアクション」なのだから、「どういう意図があってその行為をしたのか」というポイントのほうが重要だろうね。

「黙って障子を閉めた」っていうことは、「話しかけずに、一人にしておいた」ってことだから、「邪魔をしたくなかったから」くらいは書けそうだね。

そうですね!
「息子が一人遊びに熱中している姿に胸を衝かれ、邪魔をしたくないと思ったから。」
と書けば、「原因(きっかけ)」にも「意図(目的)」にも言及していますので、「いい答案」であると言えます。
今回の問題は、傍線部の周辺に「原因・きっかけ」の情報量が多いので、つい「原因・きっかけ」のみで答案を作ってしまいがちですが、傍線部そのものが「意図的行為」なので、「邪魔をしたくないと思った」といった論点を答案に入れておきたいですね。
〈答案〉40字以内
子が一人遊びに熱中している姿に胸を衝かれ、邪魔をしたくないと思ったから。
〈配点〉
子が一人遊びに熱中している姿 ②点
胸を衝かれ ②点
邪魔をしたくないと思った ②点 「一人にしておこうと思った」なども可

これを「80字」で書くとしたらどうすればいいだろうね。
「子どもの様子」の描写が多いから、そのへんをくわしく書くことができそうだね。
特に「次の段落」に、「大人たちは、子供の熱中して遊ぶ姿にふと気づくことがある。そして胸を衝かれたりもする」とあるから、「胸を衝かれる」のさらなる前提として、「子供の熱中する様子を見て、子供にとってはそれが当たり前のことであることに気づき、胸を衝かれたため、」という理屈は書けそうだね。

「意図的行為」の理由を問われているときは「意図・目的」を書くのが大切なんだから、「夕飯は遅らせてもいい」あたりの要素をもうちょっと取り込むこともできるんじゃないかな。

両方できそうですね!
「原因・きっかけ」についても、「意図・目的」についてもちょっとずつ足すと、次のように書けますね。
〈答案〉80字以内
一心に紙を切る子供を見て、一人遊びの熱中は子供にとって当たり前のことだと気づき、胸を衝かれたため、夕飯の声掛けで邪魔をせず、遊ばせておこうと思ったから。
〈配点〉
一心に紙を切る子供を見て、 ②
一人遊びの熱中は ①
子供にとって当たり前のこと ①
胸を衝かれた ②
夕飯の声掛けで ①
邪魔をせず ② *「子供一人のまま」なども可
遊ばせておこうと思った ①