実際の高得点者の答案と見比べると、良書は限られてくる。
東京大学の二次試験の現代文は、きわめて質のよい問題なので、仮に東大を受けないとしても、数年分の過去問を解くことは非常に有益なことです。多くの過去問に対し、多くの人々が、本気で解答例を考えており、考察の数が多いぶんだけ、方法論を比較検討しやすいからです。
「模範解答と採点基準」を大学側が発表しているわけではないので、どのような答えを書けば、どのくらいの得点になるのか、正しくはわかりません。しかし、まったくわからないわけではありません。得点の開示があるからです。「国語」全体での得点開示になりますが、合格する受験生の「古文漢文」の答案はかなり似たものになりますし、「古文漢文」は比較的採点基準を想定しやすいので、たとえば次のような推論をしていくことができます。
そこで、以下には、「これなら高得点になっているはずだ」と考えられる答案を出しているテキストをいくつか紹介しておきます。
推薦図書
『東大現代文プレミアム』
問いに対して方針を立てて、解答を作成していくプロセスが一貫しているので、受験生が「考えそのもの」を学ぶのに最適な本です。
答案も、「受験生」が「制限時間内」で十分目指せるものとしての解答例が示されています。その点も徹底されています。
いま書店に置いてあるものとしては最良の一冊です。
世界一わかりやすい東大の国語(現代文)合格講座
河合塾の先生方による「解答例」に至るプロセスがわかりやすく示されています。お二人の著書には、『記述の手順がわかって書ける! 現代文記述問題の解き方 「二つの図式」と「四つの定理」』もあります。こちらでも東大の問題が扱われていますが、東大に特化しているわけではありません。そのため、東大にこだわらず、単純に記述力を養成したい場合は、『記述の手順~』のほうが適当ですが、「得点になる東大の解答例を示しているテキスト」としては、『世界一わかりやすい 東大の国語(現代文) 合格講座』のほうが適当です。
扱っている問題数が多くはないので、これ1冊では物足りません。ただ、冒頭で述べたように、時間に限りのある受験生が、現代文に長い時間を割くのは得策ではありません。そういう意味では、この本だけに集中して取り組み、現代文対策としては他のものは一切やらないという方法が、総合的に見て利となる受験生も少なくないと思います。他科目のほうに不安要素がある受験生は、そちらを補ったほうが総合的な得点は上がります。
『現代文の解法(東京大学への道)』
採用している過去問の年度は古いものの、「制限時間内で書ける良質な解答例」がこれほど掲載されている書籍は他にありません。古いといっても、2000年代の問題の傾向は概ね同じであり、「答案の作り方」の考え方はまったく同じですから、年度が古いことに特別な不利益はありません。示されている「解答例」は、「高得点水準」のものと、「平均点水準」のものとが混在していますが、解き方が一貫しているので、「一貫した方法論を用いて解くと、結果的に、平均点水準の答案~高得点水準の答案ができあがる」ということが勉強できます。小問4つのうち、2問が平均点水準で、2問が高得点水準だと、総合的に上位得点者になります。
「受験生目線」という立ち位置から作られているので、「高得点」になっていない答案もありますが、本書はむしろそれを意図しているところがあります。
「完璧でなくてもいいからプロセスを守って書けばよい」ということを学ぶにはうってつけの本です。
『上級現代文Ⅱ』
『アクセス現代文(河合出版)』の著者たちによる、記述を中心においた問題集です。河合塾の解答速報などのサイトで公表されている「解答例」に至るプロセスが説明されているので、勉強になる部分が多いです。
『上級現代文Ⅱ』は、解説が丁寧ではありますが、いくつかの大学の過去問が収録されているぶんだけ、たとえば「東大に特化した対策をしたい」という場合には、ズバリ向いている本とは言えません。たとえば、「東大」と「京大」では、「どこまで細かく書くか」という「レベル」が、ある程度異なるので、「東大」と「京大」の過去問を同じ本に入れている以上、「方法論の範囲」はやや広がってしまいます。
同じような文章の同じようなところに傍線を引いたとしても、東大なら70字程度で書く問題になっており、京大なら100字くらいで書く問題になっている、という傾向の違いがあるからです。その際、「京大なら複数挙げられている例示の一つ一つを抽象化して説明表現になおす」「東大ならさらにそれを一気に一般化する」といったような「制限字数から考えられる細かさの違い」が若干あります。
なお、『上級現代文Ⅰ』のほうにも東大の課題文が複数採用されていますが、答えやすくするために、問いを改変したり、制限字数を設けたりしており、実際の過去問よりも平易になっています。
『Ⅰ』のほうは、志望校の対策をするというよりは、「記述の基礎を固める」という目的で使用することになります。また、『Ⅰ』は、問題数が非常に多く、すべてやるにはかなり時間がかかるので、本気で取り組むのであれば、高校1年次や2年次からしっかり計画立てておく必要があります。
なお、『上級現代文』については、『Ⅰ』に取り組むにせよ、『Ⅱ』に取り組むにせよ(あるいはその両方に取り組むにせよ)、その前提として『アクセス現代文基本編』を終わらせておくほうが、合理的な学習ができます。