実際の高得点者の答案と見比べると、良書は限られてくる。
東京大学の二次試験の現代文は、きわめて質のよい問題なので、仮に東大を受けないとしても、数年分の過去問を解くことは非常に有益なことです。多くの過去問に対し、多くの人々が、本気で解答例を考えており、考察の数が多いぶんだけ、方法論を比較検討しやすいからです。
もちろん、実際に受ける場合は、10年分くらいの過去問に取り組みたいところです。とはいえ、他の科目を圧迫してまで現代文に時間をかけるのは得策ではありません。国語の内訳で言っても、記述に関しては古文漢文のほうが得点が取りやすいので、どちらかといえば古文漢文に時間を使ったほうがよいです。
どの科目もそうですが、特に現代文は、「やみくもに時間だけかける」という学習が最も無駄になる科目です。たとえば「歴史」は、解答の方向性をほぼ決められるので、その決められたゴールに向かって学習すればよいことになりますが、現代文は、書物によって、解答の方向性がずいぶん異なります(赤本と青本でもすいぶん違います)。そのため、「得点になるとは考えにくい答案」に向かって学習時間をかけても、その努力が得点に結びつかなくなってしまいます。したがって、「ゴール」すなわち「どういう答案が点になるのか」ということについて、方向性をもって進まなければなりません。
「模範解答と採点基準」を大学側が発表しているわけではないので、どのような答えを書けば、どのくらいの得点になるのか、正しくはわかりません。しかし、まったくわからないわけではありません。得点の開示があるからです。「国語」全体での得点開示になりますが、合格する受験生の「古文漢文」の答案はかなり似たものになりますし、「古文漢文」は比較的採点基準を想定しやすいので、たとえば次のような推論をしていくことができます。
「この受験生は120点中75点を取ったけれど、この古文漢文の答案だと、75点中40点は古文漢文で取れているだろう。ということは、 現代文で35点くらいは取っているだろう。」
そうやって、受験生の再現答案を複数見比べていくと、「どう書けばよいのか」について、輪郭をつくっていくことができます。各予備校も当然この作業をしていますが、どういうわけか、公表する解答例が、その作業にまるで一致していないものになっている場合もあります。
そこで、以下には、「これなら高得点になっているはずだ」と考えられる答案を出しているテキストをいくつか紹介しておきます。
『現代文の解法(東京大学への道)』
採用している過去問の年度は古いものの、「制限時間内で書ける良質な解答例」がこれほど掲載されている書籍は他にありません。古いといっても、2000年代の問題の傾向は概ね同じであり、「答案の作り方」の考え方はまったく同じですから、年度が古いことに特別な不利益はありません。示されている「解答例」は、「高得点水準」のものと、「平均点水準」のものとが混在していますが、解き方が一貫しているので、「一貫した方法論を用いて解くと、結果的に、平均点水準の答案~高得点水準の答案ができあがる」ということが勉強できます。小問4つのうち、2問が平均点水準で、2問が高得点水準だと、総合的に上位得点者になります。
*詳細は画像のリンク先(amazon)のレビューなどを参考にしてください。
「受験生目線」という立ち位置から作られているので、「高得点」になっていない答案もありますが、筆者の今井氏は、むしろそれを意図しています。「完璧でなくてもいいからプロセスを守って書けばよい」ということを学ぶにはうってつけの本です。
『世界一わかりやすい 東大の国語(現代文) 合格講座』
河合塾の先生方による「解答例」に至るプロセスがわかりやすく示されています。お二人の著書には、『記述の手順がわかって書ける! 現代文記述問題の解き方 「二つの図式」と「四つの定理」』もあります。こちらでも東大の問題が扱われていますが、東大に特化しているわけではありません。そのため、東大にこだわらず、単純に記述力を養成したい場合は、『記述の手順~』のほうが適当ですが、「得点になる東大の解答例を示しているテキスト」としては、『世界一わかりやすい 東大の国語(現代文) 合格講座』のほうが適当です。
*詳細は画像のリンク先(amazon)のレビューなどを参考にしてください。
扱っている問題数が多くはないので、これ1冊では物足りません。ただ、冒頭で述べたように、時間に限りのある受験生が、現代文に長い時間を割くのは得策ではありません。そういう意味では、この本だけに集中して取り組み、現代文対策としては他のものは一切やらないという方法が、功を奏する受験生も少なくないと思います。他科目のほうに不安要素がある受験生は、そちらを補ったほうが総合的な得点は上がります。
『上級現代文Ⅱ』(『上級現代文Ⅰ』の発展的問題集)
『アクセス現代文(河合出版)』の著者たちによる、記述を中心においた問題集です。河合塾の解答速報などのサイトで公表されている「解答例」に至るプロセスが説明されているので、勉強になる部分が多いです。
*「東大の良質な解答例」があるものは「Ⅱ」のほうです。詳細は画像のリンク先(amazon)のレビューなどを参考にしてください。
『上級現代文Ⅱ』は、解説が丁寧ではありますが、いくつかの大学の過去問が収録されているぶんだけ、東大に特化した方法論としてはぼんやりしてしまっているところはあります。もちろん執筆されている方々の問題ではありません。たとえば、「東大」と「京大」では、「どこまで細かく書くか」という「レベル」が、ある程度異なるので、「東大」と「京大」の過去問を同じ本に入れている以上、「方法論の範囲」はやや広がってしまいます。同じような文章の同じようなところに傍線を引いたとしても、東大なら70字程度で書く問題になっており、京大なら100字くらいで書く問題になっている、という傾向の違いがあるからです。その際、「京大なら複数挙げられている例示の一つ一つを抽象化して説明表現になおす」「東大ならさらにそれを一気に一般化する」といったような「制限字数から考えられる細かさの違い」が若干あります。
なお、『上級現代文Ⅰ』のほうにも東大の課題文が複数採用されていますが、答えやすくするために、問いを改変したり、制限字数を設けたりしており、実際の過去問よりも平易になっています。したがって、「得点になる東大の解答例を示しているテキスト」としては『Ⅰ』は当てはまりません。
『Ⅰ』のほうは、志望校の対策をするというよりは、「記述の基礎を固める」という目的で使用することになります。また、『Ⅰ』は、問題数が非常に多く、すべてやるにはかなり時間がかかるので、本気で取り組むのであれば、高校1年次や2年次からしっかり計画立てておく必要があります。
なお、『上級現代文』については、『Ⅰ』に取り組むにせよ、『Ⅱ』に取り組むにせよ(あるいはその両方に取り組むにせよ)、その前提として『アクセス現代文基礎編』を終わらせておくほうが、合理的な学習ができます。
他教科のことを考えずに、ただひたすら現代文のことだけを考えるなら、高1で『入試現代文へのアクセス基礎編』、高2で『入試現代文へのアクセス発展編』&『上級現代文Ⅰ』、高3で『入試現代文へのアクセス完成編』&『上級現代文Ⅱ』というのが、難関大の国立二次試験に臨むための鉄板ルートであるといえます。
『東大入試徹底解明 ドラゴン現代文』
論点の発見の仕方から、まとめ方まで、非常に細かく分析されています。筆者の熱意もよく伝わってくる参考書であり、良質な解答例が示されています。
*詳細は画像のリンク先(amazon)のレビューなどを参考にしてください。
「どういうことか」の問題に対して、解答例の文末を「~こと。」「~ということ。」にしていないので、一般的な問題集で学習してきた受験生にとっては、文末処理に疑問が残るかもしれません。私見としては、傍線部そのものの文構造に対応していれば、「こと。」「ということ。」はなくても問題ないと考えています(つまり、この参考書の支持者です)が、模試や学校の試験で「こと。」を書かずに減点された経験を持つ受験生にとっては、本番で「こと。」を省いて書くのは勇気がいることと思います。
番外編(書籍ではない)
東進ハイスクール「過去問データベース」の解答例
無料で会員になれますので、最も格安です。しかも、解答例の質がよいです。特に、2006,7,8年あたりから現在までの答案が、高得点になっていると考えられます。
解答例が良質であり、しかも無料であるという点で、東大志望者は会員登録して「東進の解答例」を見ることをおすすめします。ただ、「解説」がついている年度と、ついていない年度があります。また、解説自体がやや高度なので、腰を据えて読む必要があります。
Z会の過去問シリーズ
「再現答案をできる限り収集して、高得点になると考えられる解答例を作成する」という作業を長い歴史のなかで実施しているのは「Z会」です。Z会は難関国立をターゲットに「過去問添削」というコンテンツを持っています。解説も添削も良質です。