
精読するための問題を考えていこう!
問1 「不思議な思い」といえるのはなぜか。
①ミロのヴィーナスを眺めながら、彼女がこんなにも魅惑的であるためには、両腕を失っていなければならなかったのだと、僕はふと不思議な思いにとらわれたことがある。つまり、そこには、美術作品の運命という制作者のあずかり知らぬ何物かも、微妙な協力をしているように思われてならなかったのである。

直後の「つまり」に着眼すると、
美術作品の運命という制作者のあずかり知らぬ何者かが微妙な協力をしているから。
といった「答案」をつくることができるね。

そうだね!
ただ、「美術作品の運命という制作者のあずかり知らぬ何者かが微妙な協力をしている」という表現は、ちょっと何を言っているのかわからない。
要するに「作者の意図しない展開によって魅力が生じている」ということだから、そういうふうに書いたほうがいいね。
「あずかり知らぬ」はそのまま書いても伝わるけど、ちょっと慣用句っぽいから、「関与しない/作為ではない/意図しない」といった表現にしたほうが親切だね。

ふむふむ。
「あずかり知らぬ」のまま書いてもいいけど、端的に言い換えてもいいということなんだな。

そうだね!
さて、では、その「魅力」っていうのはどういうことなのかというと、まず「両腕が欠損していること」によって生じているわけだよね。
そのことにも言及すると、
ミロのヴィーナスの両腕が欠損していることで、制作者の意図を超えた魅力が生じているから。
といった答案が成立する。

でも、どうして「両腕がない」ことが「魅力」になるんだろうね。

本文全体から考えると、「ない」ことによって、かえって「想像力がかきたてられるから」だと言えるよね。
解答の制限字数が短ければここまで書く必要はないけれど、字数に余裕があるならその要素も入れておくと、情報の詰まったいい答案になるね。
〈答案〉
ミロのヴィーナスの両腕が欠損するという作者の意図を超えた状態によって、様々な腕を想像するという魅力が生じているから。
〈配点〉⑧点
ミロのヴィーナスの両腕が無くなる ①点(できればあるとよい)
作者のあずかり知らぬ/作者の意図を超えた ③点 *重要論点
あらゆる腕を想像する ①点(字数が短ければカット可)
魅力が生じている ③点 *重要論点
問2 「彼女」が「両腕」を「隠してきた」のはなぜか。
②パロス産の大理石でできている彼女は、十九世紀の初め頃、メロス島でそこの農民により思いがけなく発掘され、フランス人に買い取られて、パリのルーヴル美術館に運ばれたといわれている。そのとき、彼女はその両腕を、故郷であるギリシャの海か陸のどこか、いわば生臭い秘密の場所にうまく忘れてきたのであった。いや、もっと的確に言うならば、彼女はその両腕を、自分の美しさのために、無意識的に隠してきたのであった。よりよく国境を渡っていくために、そしてまた、よりよく時代を超えていくために。このことは、僕には、特殊から普遍への巧まざる跳躍であるようにも思われるし、また、部分的な具象の放棄による、ある全体性への偶然の肉薄であるようにも思われる。

「生臭い秘密の場所」っていうのは、「生々しい匂いのある、誰にも見つからない場所」などといえるね。
つまり、「ミロのヴィーナスの両腕のある『生々しい現実世界』には、もう誰も近づけない」というようなことを言っているんだね。
「彼女はその両腕を、自分の美しさのために、無意識的に隠してきた」という表現には、「擬人法」が使われている。擬人法は「活喩法」の一種なんだ。
「活喩」というのは、「無生物や抽象物などに生命一般の性質を与える表現」のことで、そのうち「人の行動に喩える」ことを「擬人法」というんだね。

「よりよく国境を渡っていく」「よりよく時代を超えていく」というのは、本文全体の要旨から考えると、「他の国の人々や、違う時代の人々に、いっそう美しい存在(魅惑的な存在)として受け入れられる」などと言えそうだね。

そうだね!
だから、「彼女」が「両腕を無意識的に隠してきた」のはなぜか、と問われたならば、それが答えになるね。
〈字数の短い答案〉
国の違いや時代の違いを超越して、より美しい(より芸術的な)存在として受け入れられるため。

ここでの「彼女」は「ミロのヴィーナス」のことだよね。
で、「両腕を隠す」というのは、実際には欠損(欠落)してしまったことを意味しているよね。
答案にはそのことも書いておくほうがいいんじゃないかな。

そうだね!
字数的に入るなら、「傍線部の内部の比喩的な表現」を「比喩ではない表現」にして書いておくほうがいいね。
特にこの問題は「なぜか」のなかでも「意図型」の「なぜか」だといえるから、傍線部の内容にも言及しておくほうが論理的な答案になる。
〈字数の長い答案〉
ミロのヴィーナスが、両腕を欠損することで、国の違いや時代の違いを超越して、より美しい(より芸術的な)存在として受け入れられるから。

ただ、「両腕が無くなる」ことで、どうして国境や時代を超えて魅力的な彫刻として受け入れられるんだろうね。

「よりよく」超える、というのは、物体として完全体であるよりも、物体として不完全になってしまったことで、「よりよい芸術作品(より魅力的な芸術作品)」として国境を渡り、また時代を超えて行った、という意味で解釈できる。
「両腕がある」よりも「両腕がない」ほうが「よりよい」と言える点ってなんだろう。

ああ~。
想像力が無限に広がって、あらゆる腕をイメージできるっていうことだろうな。

そうだね!
たしかに筆者はそういうことを述べている。
字数があれば、その「想像力が無限に広がる」とか「あらゆる腕を想像できる」といった「補足」をしておくと、いっそう論理的な答案になるね。
〈さらに字数の長い答案〉
ミロのヴィーナスが、両腕を欠損することで、想像力がうながされ(あらゆる腕が想像され)、国の違いや時代の違いを超越して、より美しい(より芸術的な)存在として受け入れられるから。
〈配点〉⑧点
ミロのヴィーナスが、両腕を失うことで ①点 (できればあるとよい)
想像力がうながされ(あらゆる腕が想像され) ①点 (字数が短ければカット可)
国の違いや時代の違いを超越して ③点 *重要論点
より美しい(より芸術的な)存在として受け入れられるから。 ③点 *重要論点

「問1」でも「問2」でも、「あらゆる腕を想像する」という論点は、「解答に必須」ではない。近くに書いてある情報ではないから、「直接的なかかわり」は弱いんだ。
こういう「補足事項」は、なくても得点に大きな影響はないよ。ただ、あるほうが詳しい説明にはなっているよね。
だから、字数が長めの記述問題で、解答欄に余白ができてしまうんだったら、このくらいの「補足」があっていいんだと考えておこう。
答案はたいていの場合、「核心」と「補足」で成り立つんだけど、まずは「核心」を取りこぼさないようにトレーニングしていけるといいね。
問3 「特殊から普遍への巧まざる跳躍」とはどういうことか。

「特殊」「普遍」「巧まざる」「跳躍」あたりを文脈に沿って説明すると、次のような答案になるかな。
〈下書き〉
有形の具体的な美から、無形の抽象的な美へと、無意識に(意図せず・作為なく)発展(成長・伸長・進化)したということ。

いいね!
「跳躍」を説明するのは難しいけれど、「ジャンプアップした」という意味合いだよね。だから、「発展・成長・進化」っていうように「よりよくなった」という説明ができればOK!
なお、「腕(両腕)」を入れておいたほうが、よりよい答案になるね。字数に余裕があれば、「(ミロの)ヴィーナス」という主題も入れておこう。
〈答案〉
ミロのヴィーナスの両腕は、有形の具体的な美から、無形の抽象的な美へと、意図せずに進化したということ。

これで完成で大丈夫だけれど、「無形の抽象的な美」というのがどういうことなのか少しわかりづらいよね。
字数に余裕があればの話だけど、ここにも「鑑賞者の想像によって成立する」といった「補足情報」を入れておけるといいね。
〈字数の長い答案〉
ミロのヴィーナスの両腕は、有形の具体的な美から、どのような腕かを想像させる無形の抽象的な美へと、意図せずに進化したということ。
〈配点〉⑧点
ミロのヴィーナスの両腕は、 ①点(できればあるとよい)
有形の具体的な美から、 ②点 *重要論点
どのような腕かを想像させる ①点 (字数が短ければカット可)
無形の抽象的な美へと、 ②点 *重要論点
意図せずに進化したということ。 ②点 *重要論点

「跳躍」の言いかえって、ちょっと思いつかないな・・・

そういうときはね、思い切って「跳躍」ってそのまま書くといいよ。
少なくとも減点はされないから。

そのまま書いちゃっていいの?

「跳躍」って、文法的には名詞だけど、ここでは「ミロのヴィーナスが特殊から普遍へと巧まざる跳躍をした」ってことだから、「ヴィ―ナス」の「行為」なわけだよね。
こういうふうに「何が(誰が)ーどうした」という論理関係において、「どうした」の部分を省いてしまうと、「論理」が成り立たないから、「跳躍」という語を無視するわけにはいかないんだ。
こういう場合の採点っていうのは、たいてい
①無視(言及なし)・・・減点
②言い換えなし・・・減点も加点も無し
③うまく言いかえる・・・加点
という感じになるから、「③が無理ならせめて②にしておく」という姿勢でいるといいね。

ふむふむ。
じゃあ、「巧まざる」も、言い換えが思いつかなかったらそのまま書いたほうがいいの?

無視するくらいならそのまま書いたほうがマシだよ。
むしろ「巧まざる」を無視してしまうほうが減点されるから、「ちょうどいい言いかえ」を思いつかなかい場合、無視するよりはそのまま書いてしまったほうがいいね。
こういう「傍線部内の重要語句」は、「無視してしまうと減点」「うまく言い換えられると加点」というイメージを持っておくといいよ。
〈ポイント〉
傍線部内の重要な構成要素は・・・
言及なし(無視)・・・減点
そのまま書く・・・減点も加点もなし
うまく言い換える・・・加点
と考えておきたい。
そのため、「うまい言いかえ」ができない場合、「書かない」よりは「そのまま書く」ほうがよい。

ふむふむ。
ちょっと話ズレるけど、「形而上」とか「形而下」って語句があったよね。

あったね!
「形而上」は「形を超越した、精神的・観念的なもの」で、「メタ・フィジックス」「メタ・フィジカル」なんていうね。
「形而下」は「物質的で具体的なもの」を意味する。
たとえば「本」は「形而下」のもので、それによって生まれる「思考」は「形而上」のものだといえるね。
ミロのヴィーナスの両腕は、欠損することによって「形而下」のものであることを脱して、「形而上の美」へと変質したのだ!

形而下の美から形而上の美へと大ジャンプしたんだね!!

そう!
だから、「選択肢問題」だったら、出題者は「形而下」とか「形而上」という語を使用してくる可能性はあるよ。
まあ、「大ジャンプ」は使わないだろうけど、「次元(性質)が異なる領域へ跳んだということ」くらいの表現なら十分マルになるよね。
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