ずっと私はひとり遊びの世界の住人であった。

分解 ⇒ 言い換え ⇒ 統合

「どういうことか」の問題に対する答案作成の基本的態度は、

分解 ⇒ 言い換え ⇒ 統合

です。

傍線部の各要素をそれぞれ言い換え、最終的に統合できる表現力が重要です。

では、問題にチャレンジしましょう。

 菜の花畑でかくれんぼをしたことがあった。菜の花畑は、子供の鬼には余りに広すぎた。七歳の子供の探索能力を超えていたのである。私は鬼を待っていた。もう何十分も何時間も待っていたのだった。待つことにすら熱中できた子供時代。今始まったばかりの子供時代の、ゆっくりゆっくり動いてゆく時間に身を浸しているという、識閾にすらのぼらない充足感があったにちがいない。時代もまたそのように大どかに動く時間の中にたしかに呼吸していたのである。今日のように、自然性を分断された風景というものはなかった。大きな風景の中に、人間も生きていられたのである。菜の花畑の向こうにれんげ畑、れんげ畑のむこうに麦畑がああり、それらは遠く山すそまで広がっているはずだった。
 子ども時代が終わり、少女期が過ぎ、大人になってからも、ずっと私はひとり遊びの世界の住人であった。何かひとつのことに熱中し、心の力を傾けていないと、自分が不安で落着かなかった。こうした私の性癖は、生き方の基本姿勢をも次第に決定して行ったようである。考え、計算しているより先に、ひたぶるに、一心に、暴力的に対象にぶつかって行く。幸か不幸か、現在の私は、実人生でよりも、歌作りの上で、はるかに強く意識的に、このことを実践している。歌作りの現場は、意志と体力と集中力が勝負である。歌作りとは、力業である。しかし一首の歌のために幾晩徹夜して励んだとしても、よそ目には遊びとしか見えないだろう。然り、と私は答えよう。一見役に立たないもの、無駄なもの、何でもないものの中に価値を見つけ出しそれに熱中する。ひとり遊びの本領である。

「ひとり遊び」

傍線部「ずっと私はひとり遊びの世界の住人であった」とはどういうことか、説明せよ。

傍線部を分解してみましょう。

あまり分けすぎてもよくないのですが、「主語」「目的語」「述語」くらいには分けてみるとよいです。

〈論点a〉ずっと
〈論点b〉私は
〈論点c〉ひとり遊びの世界の
〈論点d〉住人であった

それぞれ言い換えていきましょう。

論点a 「ずっと」

「ずっと」というのは、直前の「子ども時代が終わり、少女期が過ぎ、大人になってからも」という部分を指しています。

直前の部分では「幼児期」の体験が書かれていますので、単純に「子どもの時から大人になるまで」と書けば「論点言及」はクリアです。

論点b 「私は」

「私は」は、客観表現として、「筆者は」としておきましょう。

論点c 「ひとり遊びの世界」

「ひとり遊びの世界」は、文章の最後に、「ひとり遊びの本領である」とまとめられていますので、その直前の、

「一見役に立たないもの、無駄なもの、何でもないものの中に価値を見つけ出しそれに熱中する」

という部分を使用することができます。

論点d 「(世界の)住人」

「住人」は典型的な比喩です。「ひとり遊びの世界」は、「家」や「街」ではありませんから、「そこに住んでいる人」というのは「たとえ」です。

「~な世界に住んできた」というのは、

「~な人生を過ごしてきた」などと言い換えられるとよいでしょう。

「世界」は無視してもよさそうですが、理想としては、「人生」などと言い換えたほうが得点化される可能性が高いです。

「価値観を持ってきた」などでもよいでしょう。

合格答案

幼児期から大人になった現在に至るまで、筆者は、一見役に立たないもの、無駄なもの、何でもないものの中に価値を見つけ出し、一人で熱中する人生を過ごしてきたということ。

ただし、「子どもの頃」と「大人になった今」では、その「遊び方」は異なります。

幼少期は、「自然」という自我を超えた存在と接点を持つことに夢中になったのであり、今は「歌作り」に一心に励んでいるのです。

そのことから、「自然に親しんだ幼少期から、歌作りに没頭する大人としての現在まで」といったように、傍線部よりも少しでも「映像化(イメージ)」しやすい答案にすると、いっそうわかりやすくなります。

ハイレベル答案

自然に親しんだ幼児期から歌作りに没頭する大人としての現在まで、筆者は、一見役に立たないもの、無駄なもの、何でもないものの中に価値を見出し、一人で熱中する人生を過ごしてきたということ。

「ハイレベル」とはしましたが、この答案は、字数が長くなりすぎています。東大の解答欄に収まらなくはないのですが、もう少し短くしたいですね。

そこで、「冗長な部分」を「圧縮」する方法を取りましょう。

トップレベル答案への+α

「一見役に立たないもの、無駄なもの、何でもないものの」という部分が、情報量のわりには、字数をけっこう使ってしまっています。ここを短くしましょう。

しかし、このように「列挙」されているもののうち、「一つだけ」を拾うという方法は、答案作成においては「禁じ手」です。「列挙」されているものは、言及するならそのそれぞれにふれるのが鉄則です。または、そのすべての意味を包含する一つの表現にしてしまうことです。

「それぞれ」の意味を出しながら「圧縮」するのであれば、次のようにできます。

「役に立たない」は、「不要」「無用」などと言い換えることができます。

「無駄」は、そもそも短いので、そのままでいいでしょう。

「何でもないもの」は、文脈上、「平凡」「凡百」「普通」などと言い換えることができます。

そうすると、

「一見役に立たないもの、無駄なもの、何でもないものの」は、

「無用、無駄、平凡に見えるもの」などのように圧縮することが可能です。

別の方法論として、「すべての意味を包含する一つの表現にしてしまう」のであれば、たとえば、

「一見無意味なもの」

などと表現することができます。

「役に立たない」「無駄」「何でもない」という3つの言葉を、大きく一掴みに表現するものとして、「無意味」とか「意味がない」などと書くのは妥当な手段です。ただし、筆者からしてみれば意味があるものなので、「一見」を外してしまわないように注意しましょう。

「役に立たない」「無駄」「何でもない」をまるごとまとめて、「無意味」などと表現するのはOK!

しかし、3つあるうちの「無駄」だけを拾って書き込むのはNG。

その違いを区別しておきましょう。

トップレベル答案

自然に親しんだ幼児期から歌作りに没頭する大人の現在まで、筆者は、不要で、無駄で、平凡に見えるものに価値を見出し、一人で熱中する人生を過ごしてきたということ。

並列的に「列挙」されている情報を、答案に取り込む場合、そのうちの一つしか拾わないという手段はNGです。

そのまま全部取り込みましょう。

字数に入るならそのまま書けばいいのですが、表現が冗長な場合は、言い換えて圧縮しましょう。

前述したように、3つをまるごとまとめて「一見意味がない」などとするのもOKです。

列挙されている重要表現は、「すべて拾う」か「まるごとまとめる」か、どちらかで得点化されます。

採点基準 ⑥点

幼児期から大人としての現在まで、     ① 「歌作り」があれば①点加点
筆者は、              (ないと減点)
不要で、無駄で、平凡に          ① 「無意味」などに一語化しても可
見えるものに価値を見出し、        ① 「一見」と同趣旨なら加点
一人                   ①
熱中する                 ① キーワード
人生を過ごしてきたということ。      ① *

*「世界の住人」という比喩を、実態に合わせて言い換えていれば加点
(「~環境で過ごしてきた」「~価値観を持ち続けてきた」などでよい。)

選択肢なら……

選択肢問題であれば、次のような正解が考えられます。

幼児期には自然に溶け込み、成人しても歌作りに専念してきた筆者は、傍目には価値がなく、ありきたりなものを好み、一人それらと遊ぶように生きてきたということ。

「溶け込み」って、ちょっと比喩っぽいですけど……

自分で書く「記述問題」ならば、こういった表現は避けるべきです

ただ、選択肢問題は「他がもっと×」ならば○になるものなので、ちょっと比喩っぽい表現が入っているからと理由のみで×にすることはできません。

「傍目には価値がなく、ありきたりなもの」って、「3つ列挙されていた情報」を、なんとなく混ぜてしまっていませんか?

これもやはり、「記述問題」ならば、避けるべき書き方です。

しかし、「選択肢問題」の場合は、「4つ列挙されていたものの2つだけを書き込む」というものもあります。

はっきり言って、「へたくそ」な選択肢ではありますが、それだけで×にはできません。

繰り返し言いますが、「選択肢問題」は、「他がもっと×」なら残ったものが○になるものなので、記述の理想像とはけっこう異なるものが正解になることも少なくありません。

チャレンジ

何かひとつのことに熱中し、一見役に立たないもの、無駄なもの、何でもないものの中に価値を見つけ出し、それに熱中することで歌作りの上でそれは同じということ。

どついたれ本舗

2/6点です。

論点としては4点分入りますが、答案の最後の部分の意味が不明瞭になっているので、そこで減点されています。

「論点を拾う」ということに関してはいい答案です。まとめ方に時間を費やせばいっそうよい答案になったでしょう。

何でもないものの中に価値を見つけ出しそれに熱中するという対象への没頭がひとり遊びの本領であり筆者が歌作りの上でそれをはるかに強く意識的に実践しているということ。

♡みく♡まゆ

3/6点です。

主要な論点を拾っているところがよいですね。

「子供時代から今まで」という論点があり、もう少し短くまとめられていれば合格点水準です。

子供の時ひとり遊びの世界と出逢い、それ以来なにかひとつのことに没頭し、心の力を傾けていないと自分が不安で落着かず、それが自分の生き方の基本姿勢を次第に決定していったということ。

我ら正義の輝くらーめん

2/6点です。

後半がちょっともったいないですね。

「ひとり遊びの世界の住人」という比喩表現を、もう少し具体的に解決できるともっとよかったですね。

子どもの頃は、名もないようなただひたすらに没頭するだけの遊びにふけていて、大人になった今も歌作りという何もないような事に熱中して価値を見出す、まさに「ひとり遊びの本領」とも言えることをしているから。

つれづれなるままに、日くらし硯にむかひて、心にうつりゆくよしなし事を、そこはかとなく書きつくれば、あやしうこそものぐるほしけれ。

2/6点です。

全体として言いたいことは整合しています。

字数が長いことと、文末が「こと。」になっていないことがもったいないですね。

ひとつのことに熱中していないと不安で落ち着かないという性癖が、一心に、暴力的に対象にぶつかっていくような生き方の基本姿勢をも次第に決定していったから。

ぷかぷか

1/6点です。

文章の最後の「ひとり遊びの本領」というところをヒントに論点を拾えるとよかったですね。

文末が「こと。」になっていないところももったいないですね。