問1
(ア)正解は⑤
(イ)正解は④
(ウ)正解は①
問2 正解は③
小説には登場人物が感情を投影する「コト・モノ」が出現します。たとえば、ここでは「洋室」は、「一人になりたい」という気持ちを投影しています。「涙」は、「それを流したくない」ということから、「今までの自分自身に似合わないふるまいをしたくない」という気持ちを投影しています。傍線部内(傍線部付近)に、心情を投影していると思われる「コト・モト」があったら、そこから正解の根拠を探すくせをつけてください。
③は、前半が「洋室」に込められた心情説明、後半が「涙(を流したくない)」に込められた心情説明として成立しています。
不正解の選択肢
①
「弱みを見せたくない」が×。部屋には一人なので、涙を流しても誰かに弱みを見せることにはなりません。
②
「悲しむ様子を見せては」が×。①を消した理由と同じですが、部屋には一人です。
④
「和解を演出」が話題なしで×。
⑤
「成長した姿を見せよう」が話題なしで×。「周囲の人々の情にほだされて」の話題もありません。
問3 正解は④
適当でないものを選ぶことを見落とさないようにしましょう。
①②③は、「日が暮れた」から「妻が暗い洋室に入ってきた」までの、まさに「この時」の心情として適切です。迷うのは④か⑤です。
④「昔の過ちに振りまわされる人生の不可解さを実感している」という話題はありません。また、この言葉をほどいて読んでみると、「昔自分がしてきた過ちに振りまわされるなんて、人生はわからねえなあ」というような気持ちを持っていることになってしまいます。しかし本文で主人公は、「自分が家族からずっと受け入れてもらえなかったのは、自分の過ちのせいだ」ということは十分納得していますので、「不可解」は不適です。
⑤は「日が暮れる」前の場面を指しているので、④がなければ⑤を不適にしたいくらいの選択肢です。ただ、「部屋に一人でいる状況」としては地続きではあるので、「日が暮れる前の場面」から気持ちが大きく変化しているわけではないと判断しましょう。
見比べると、④はどこにも書いてないもの(むしろ主人公の気持ちとしては逆なもの)。⑤は「前の場面」に書いているものです。⑤もズバリ適切なものではないのですが、④の「本文の主旨と逆」と、⑤の「時間がずれている」で見比べるならば、④のほうが「より遠い」と判断して④を選びます。本文とあわない選択肢として、「逆」のパターンは最も威力が強いものだと考えてください。
問4 正解は④
セリフが続きますが、そのやりとりの中にある「やはり不安の様子」「これから私たちどうなるの?」を見逃さないでください。「不安」という感情を投影するのが「私たちどうなるの?」というセリフです。セリフには、背景に何らかの心情がありますが、それが文中から読み取れるものは、正解の根拠にも使用されやすいと考えてください。ここはその典型的な問題で、「不安」という心情を拾っていない選択肢は外れます。④には、「自分たち二人」という言葉と、「心細さ」という言葉が登場し、正解の根拠を十分に言い換えています。
①
「不義理」がおかしい。実家に勘当されていたわけであるから、むしろ実質上帰郷を許されていなかったのである。また「ためらっている」と「不安」は直接的な言い換えにはならないので、「不安」の要素がない選択肢です。
②
「単なる強がり」が本文からは読み取れないので、話題なしで×。また、この選択肢には「不安」を代替できる言葉がありません。
③
「北さんと長兄との間に立たされて苦悩している夫」が因果関係不成立です。本文では、「北さん」が主人公を兄の仲を取り持とうとしているとあるので、間に立っているのは「夫」ではなく「北さん」です。また、「夫のことが心配」が言い足りなく△。「私たち」が心配なのであるから、夫に限定してはいけません。「積極的な行動は慎もう」という言葉からは、状況を冷静に分析しているような印象を受けます、それは本文での「不安」からはかなり遠い感情です。
小説においてはこのように、「事実誤認」のかたちとして因果関係が不成立になるケースがあります。類型的なケースとして、本文での時間がA→B→Cと流れているのに、選択肢ではA→C→Bと流れているような、「時間の流れの取り違え」にも注意してください。
⑤
「不安」という言葉はありますが、何に対して不安なのかノータッチ。本文の重要な心情表現を言い換えなしでそのまま使っている点も△。引っ掛けの可能性があります。後半「少しも自分をかまってくれず」も言い過ぎで×。主人公は妻の気持ちをまったく無視しているわけではありませんので、「少しも」は余計でしょう。
これは脱線ですが、「必ず~になる」とか「すべて~である」というように、他の可能性をまったく排除したかたちの選択肢は疑ったほうがいいでしょう。私たちの身のまわりに起きている社会現象は、「絶対にこうだ」などとは言い切れないことがほとんどですから、正解となる選択肢もそこを配慮した書き方になる傾向があります。つまり、不正解ほど「極端に」言い切っているものが多くなります。
問5 正解は①
傍線部に「結局は」という言葉があり、これは前を素直に受ける関係語です。前を見ると「許してもらおうなんて、虫のいい甘ったれた考えかたは捨てる事だ」とあり、それは傍線部の後でも、「みれんがましい欲の深い考えかたは捨てる事だ」という言葉によって反復されます。そこに気をつけるだけで消せる選択肢がいくつかあります。
不正解の選択肢
②
「いざこざを根本的に解決」が逆で×。主人公は「許してもらおうなんて考えは捨てる」と言っているわけですから、いざこざを解決することを望んではいません。後半の「正確に伝える必要がある」も話題なしです。
③
「数々の諸問題も一気に解決」が逆で×。②を消したのと同様に、主人公は許されることを望んでいません。欲の深い考え方は捨てて、「ただ」自分が愛そうと決意しているわけです。ちなみに「一気に」はなくてもよかった無駄な副詞です。もし③が正解になるのであれば、「一気に」を入れる必要はありません。そういう目線で見ると、③は一番短い選択肢です。つまりこの「一気に」は、字数を他にあわせるために補足した言葉だと判断してよいでしょう。
④
「生家の人々が最終的に問いかけてくるのは」が話題なしで×。主人公が兄たちを「ただ」愛そうと決意をする場面なのですから、「生家の人々」はここでは関係ありません。
⑤
「自分でもわからず」が△。読み取れなくはないのですが、「愛そう」という決意をしているので、素直にあてはめれば「わからず」はズレます。後半の「さらに事態を複雑にしている」は逆で×。主人公は事態の解決は望んでおらず、許してもらおうという気持ちを捨てる決意をしています。事態が複雑になろうがなるまいが、主人公にとってここではどうでもいいことです。
問6 正解は②・⑤
②は比較的選びやすいのですが、⑤は「何とか兄たちとの関係を改善したいという切実な思い」が本文からは読み取れませんし、最後にはその考えを捨てる決意をしています。そういう点では難問というより悪問です。ただ、問題のありかたが「表現」を問う形式なので、内容よりはむしろ「形式的にどういう書かれ方をしているか」というところに解答の主眼を置いたほうがよいでしょう。
不正解の選択肢
①
「主人公夫婦の心の結びつきの強さ」が話題なしで×。「二人の会話に主眼を置いた」も言いすぎです。文章の真ん中に二人の会話がありますが、その総量は「主眼」と言うほど多くはありません。
③
「枕元で繰り広げられる」が話題なしで△。母の前で兄弟げんかをしているわけではありません。「私情を交えず」が逆で×。主人公の名前「修治さん」という表記がありますが、これは太宰治の本名「津島修治」に一致します。作者の本名と主人公の名前が同じということは、私情が交えられていると考えた方が妥当です。
④
「摩擦」は言い過ぎで△。主人公は居心地のよくない思いを抱いてはいますが、実際に摩擦が生じている場面は描かれていません。主語述語をつなげると、「摩擦と愛情のあり方が浮き彫りになるように描かれている」となりますが、「摩擦」も「愛情」も「浮き彫り」にはなっていません。ですから、「摩擦」も「愛情」も、「浮き彫り」につながっていくのはおかしいので、因果関係が不成立になります。また「人間群像」が逆で×。人間群像という言葉は、様々な人間に次々にスポットがあてられていく形式を指すので、主人公が複数存在するような物語、裏を返せば主人公不在であるような物語です。本文は、徹底的に主人公にスポットのあたった描き方をしています。
*これは、形容詞や副詞にフィルターをかけ、主語と述語を単純につなげてみるという作業によって、不適であることがわかります。ややこしい選択肢ほど基本に立ち返って、主語と述語の「関係(何が―どうなる)」が本文の因果関係と一致しているかどうかをチェックしてください。
⑥
「明晰な文章」が×。明晰は「明らかではっきりしている」という意味になりますが、本文はそのような論理的な文章ではありません。そもそも小説の表現の特徴として「明晰」という言葉は似つかわしくないと判断してよいでしょう。「甘えを捨てきれない」にも△くらいはつきそうです。主人公は最後に「許してもらおう」という甘えた考えを捨てようとし、「ただ自分が兄たちを愛すればいい」という決意を表明しています。ただ、そういう決意をすること自体が、「甘えが捨てきれていない」証拠だと言えなくはないので、×にはしきれません(決意をする直前までは、ずっと甘えていたと読むこともできます)。そう考えるとこの選択肢は、決定的には「明晰」という言葉だけで落とすものであり、難易度は高いものになっています。