白桃

問1

(ア)

「心得る」という動詞から連想しましょう。

「訳知り顔」は「事情を理解している顔」ということです。

正解は④です。

(イ)

「のっぴきならない」は「退っ引きならない」と書きます。

「退くことも引くこともできない」ということから、「どうしようもない」の意味になります。

正解は②です。

(ウ)

「たたずまい」は「佇まい」と書きます。

「雰囲気・様子・風情」を意味する言葉で、人物や建築物などに用います。

「様子」に最も近い選択肢としては⑤の「ありさま」が適当です。

①の「けはい」も迷いますが、「気配」は感じるものであり、「たたずまい」の辞書的意味にもありません。

たとえば、古文では、「けしき」と「けはひ」を明確に区別して用います。

けしき(気色) 目に見えているものの様子
けはひ(気配) 目には見えないものを含めた雰囲気

つまり、「気配」というのは、「気温」とか、「湿度」とか、そういった目には見えないものも含めて、総合的に「なんとなく不気味」などと「感じる」ものです。

傍線部(ウ)の「たたずまい」は、辞書的な語義としても、単純に目に見える世界の様子を意味していますから、「けはい」とは語義が食い違うと考えましょう。

文脈で判断しても、傍線部(ウ)の直前には、「夜の月が露わにしたこの異様な世界たたずまい」とあり、「異様な世界」は実際に目の前に表れているものであることがわかります。したがって、目の前に表れていないものに対して感じるものである「気配」よりも、見たままの「様子」を意味するものである「ありさま」のほうが、文脈にはあっています。

したがって、正解は⑤です。

問2

論点収集

弟の心情を問う問題です。

ただし、前後で「兄」との比較が書かれていますので、その対比に注目しましょう。

傍線部の直前には「兄がおとなっぽく映った」とあり、それに対して、「自分ひとりが乳飲み児のように道理をわきまえない子供」と感じているので、「兄」の様子を無視するわけにはいきません。

つまり、

兄 = おとな 道理をわきまえている
弟 = 子供 道理をわきまえない

という対比をおさえていることが重要です。

では、「兄」はどういう点で「道理をわきまえている」のでしょうか?

――それは、「お金をもらったら帰る」というセリフに表れています。

兄は、任務を遂行しようとしているのです。

一方、

弟は、桃に目がくらんでいるのです。

別に、出された桃を食べてしまったら、お金をもらえないというわけではありません。

「これ食って帰りな。坊や」と言われているわけではないのです。

しかし、不穏な空気を感じ取っている兄弟は(とくに兄は)、「うかつに手を出さないほうがよいだろう」と判断したのです。

ところが、弟は、「食べたい!」と欲求によって動揺しています。だからこそ平然とはしていられないのです。

傍線部の直後では、兄に対して、

どうして平然とおちつきはらっていられるのだろう。

という疑問を持っています。それは裏を返せば、「自分は平然としていられない」という心情を表していると言えます。

要するには、弟は、場の不穏な空気にたじろいでいることに加えて、「桃の魅力」にとらわれてしまっています。それによって、「いっそのこと帰りたい」と思っているのです。

以上のことから、

〈論点a〉桃への言及
〈論点b〉兄 ⇔ 自分の対比
〈論点c〉兄が「おとな」であることの説明 ⇔ 自分が「子供」であることの説明

という3つの論点が、正解に必須の条件であると言えます。

選択肢の検討

選択肢①

「米が売れそうにない不安」が、この傍線部の時点では書かれていません。「なにかあったのかな」とは思っていますが、「売れそうにもない」とまで思っている描写はないので、時間を先取りしすぎています。

また、この選択肢は、「桃」について言及していません。その点で、必須の論点を落としていると言えます。

選択肢②

「卑怯」とまで思っている描写はありません。〈本文根拠なし〉で×です。

また、「桃」にまったく言及していない点で、必須の論点を落としています。

複数の選択肢に「桃」が入っていなければ、「桃」に触れていないということだけで消すのは怖いものですが、この設問では、〈選択肢③④⑤〉はきちんと「桃」の話題に触れています。

傍線部の前後に「象徴的物体」がある場合、

① その「物体」によってどのような心情になったのか
② その「物体」に対してどのような感想を抱いたのか

など、正解の選択肢はその話題に言及していることが望ましい。

ここでの「桃」は「感情を暗に示している象徴」というよりは「感情の対象」ですが、いずれにせよ無視はできません。

選択肢③

「桃を食べることが絶望的になり」が〈話題なし〉です。

また、「桃を食べられないから兄に帰ろうと言った」という因果関係は認められません。

また、「周囲から~幼稚だと思われてしまい」という因果関係も認められません。「周囲から」→「幼稚に思われる」いうつながりではなく、「自分が、自分に対して、【幼稚だ】と、ふと思った」という文脈になります。

選択肢④

先ほど正解の条件に挙げた論点が3つとも入っています。ほぼ理想的な選択肢です。

結論部の「いまいましく思っている」というのは、傍線部内の結論である「肚だたしくもあった」の言い換えとして適当です。こういう「言い換え」に慣れていきましょう。

選択肢⑤

「感情を表に出さない」ことが「おとなっぽい」ことの理由なのではありません。弟の目から兄が「おとなっぽく」映った理由は、「お金をもらったら帰る」の発言にあります。つまり「道理」とは、ここでは「(お金を受け取るという)任務を最優先に考えている」ということなのです。

弟はその意識がどこかへ薄れてしまうほど、桃に注意が向いてしまっているのです。〈選択肢⑤〉は、そのことに言及されていません。

要するに〈選択肢⑤〉は、 〈選択肢①〉〈選択肢②〉とは逆に、「桃」についてしか述べられていないのです。

また、「肚だたしい」の言い換えとして「嫌悪」はやや変えすぎです。嫌な気持ちの程度が強くなりすぎています。選択肢問題だと、その部分だけで×にまではできませんが、もしもこれが記述問題なら、みなさんはそんな言い換えはしないでくださいね。

補足

〈問2〉を「書くなら」という視点で考えてみましょう。

「きっかけ」は、兄の「お金をもらったら帰る」という「おもおもしい宣言」を聞き、兄を「おとなっぽく」思ったことです。

その様子との対比により、自分が乳のみ児のように思えたのです。

では、自分のどのような様子が、「乳のみ児」のようであるのでしょうか。

傍線部直後に、「いったい兄は皿の桃をどう思っているのだろう」と書かれていることからも、弟の心が「桃」に強くとらわれていることがわかります。

桃に魅了されるあまり、「帰ろうよ」と発言していることからも、弟にとって「お金をもらう」という役割は、兄にとってほど重いものとしては理解されていないのです。

したがって、

兄は、桃に関心を示さず、毅然としている

  ⇔ 弟は、桃に魅了されていて、いっそ帰りたいと思っている

という対比が描ければ、構文的には成功です。

「自分ひとりが道理をわきまえない」という感情から、逆に考えると、兄は「道理をわきまえている」と読解することができますので、ここでいう「道理」とは、「何よりも最優先に、米をお金に代えてもらうという役割を果たす」という意識のことであると判断できます。

したがって、

米を金に代えてもらうという役割を果たす
(米を売るという役割を全うする)

という内容に踏み込めれば、「道理」の内容を説明したものとして評価されます。

最後に「肚だたしくもあった」です。

常用表記に直すくらいで、「腹立たしい」などとしてもよいのですが、「傍線部内の熟語は原則的に言い換える」という〈方法論的一貫性〉にしたがい、辞書的意味を援用して説明しましょう。そのことから、「怒りを覚える」くらいにしておくのがよいです。

〈記述想定答案〉100字程度
桃を前にしても平然とおちつき、米の代金を受け取るという役割を果たそうとしている兄に対し、弟は、桃に心を奪われるあまり、任務を軽視し、その場を逃げ出そうとしたことから、未熟な自分自身に怒りを覚えている(という心情)。

〈記述想定答案〉80字程度
桃を前にしても毅然とし、金を受け取るという役割を優先視している兄に対し、自分は桃に魅了されてまごつき、大人の態度をとれていないことに、怒りを覚えている(という心情)。

問3

この問題は、いわゆる「悪問」です。なぜ「悪問」と言えるのかについては、後ほど説明します。

まずは正解を出しましょう。問題の質はよくありませんが、正解が出せないわけではないので、分析していきます。

論点収集

ポイント〉

小説の読解においては、

①きっかけ → ②心情 → ③行為(セリフ)

の一連の流れを意識しましょう。

実際の時間は①→②→③の順番で流れますが、小説の記載の順序はこのとおりになるとは限りません

実際には③のあとに②が記載されることが多いものです。

また、はっきりとは②が書かれないことも少なくありません。

この設問での「行為」は主に「セリフ」です。

〈傍線部B〉周辺のセリフを「行為」と考えて、「きっかけ」と「店の主人の心情」をつないでいきましょう。

【①きっかけ】上等の米を頼んだのに、屑米と糠がたっぷり混ぜてあった
       ↓
【②心情】  (ズバリとは特に書かれていない)◆セリフから推論する
       ↓
【③行為】  テーブルをたたいた
       どさりと風呂敷包みを投げ出す
       「わしはそこいらのちんぴらとはちがうんだよ」
       「これがつかえるかい」
       「あんまりみくびってもらいたくないもんだ」
       「昔は社長のお世話になったさ。だけど恩返しはしたつもりだ」
       「社長ともあろう方がこんなけちなペテンをなさるとは残念なんだ」

「店の主人」は、昔は「社長(おやじさん)」に世話になっていた立場であるため、社長に対し、「社長ともあろう方」というような、敬語表現を用いています。つまり、尊敬表現の対象者が、すぐにわかってしまうようなつまらない詐欺をおこなうようになってしまった「変化」に、店の主人はやり場のない怒りを感じているのだと解釈できます。

では、選択肢を検討しましょう。

選択肢の検討

選択肢①

「かつては社長とも対等で」が〈話題なし〉です。

「お世話になっていた」と述べられていることからも、〈事実のエラー〉とも言えます。客観的な立場は、かつては「社長」が「上」だったのです。

選択肢②

「自分に重なり」が〈話題なし〉です。

あくまで対象は「社長が変わってしまったこと」であり、自分に重ねてはいません。

選択肢③

「改心してほしいと願っている」が〈話題なし〉です。

また「多少の悪事もやむをえない時代」が因果関係不成立(主語と述語のつながりまちがい)です。そう思っているのは「客の一人」であり、「店の主人」ではありません。

選択肢④

「何かとお世話をしてやっていて」が〈言いすぎ〉です。「主人」は「社長(おやじさん)」に対して、(おそらくそのお店で飲んだ)酒代を催促しないなど、「恩返し」はしていると言えます。しかし、かつてと逆の立場になって「何かとお世話をしている」とまで読み取れる描写はありません。

ただし、この選択肢は、〈選択肢①②③〉に比べれば、悪くない選択肢です。

選択肢⑤

「わしはちんぴらとはちがう」「みくびってもらいたくない」という本文中のセリフから、「低く見られているのかと怒り」という説明が作られています。

選択肢同士の比較で考えると、最もキズがつけにくい選択肢なので、正解候補になります。

ただ、〈選択肢④〉もそれほど悪くないので、比較のうえで正解を選びましょう。

④と⑤の比較

選択肢同士の良し悪しで考えると、相対的に⑤が正解候補になります。

しかしながら、〈選択肢⑤〉の「低く見ているのかと怒りを感じている」という表現も、その感情そのものがズバリ書かれていうわけではないので、自信をもって〈選択肢⑤〉を選ぶこともなかなかできない問題です。要するに、最も正解に近いと考えている〈選択肢⑤〉も、「とてもよい」とまでは言えない選択肢なのです。

このような時は、どう考えればいいのでしょうか。

ヒントは、「傍線がある以上、傍線を無視しない」ということです。

この設問は、「傍線部はどういうことか」と問われているわけではないので、傍線部の重要性を低く見てしまいがちなのですが、傍線が引かれている以上、そこでの心情が問われていると判断し、傍線部に表れているニュアンスを拾っていくことに努めましょう。

ひとつは、「社長ともあろう方」という表現です。この表現自体は、相手を持ち上げる表現なので、〈選択肢⑤〉の「こんなことをする人ではない」という説明に対応します。

もうひとつは、「けちなペテン」です。これは、〈選択肢⑤〉の「見えすいた手段でだまそうとする」に対応します。

つまり、〈選択肢⑤〉の説明表現は、傍線部そのもの表現を言い換えて作成されていることになります。

本来であれば、セリフと「思い」が食い違うこともありえますから、「表出されたもの(セリフ)」に対して、それがそのまま「本音の心情」だと読み取れないこともあります。しかし、「本音を隠した建前や嘘」なのであれば、それが建前や嘘であることをほのめかす描写も本文中に書かれるはずなので、そういうものが見当たらなければ、基本的に「本音がそのまま出ている」と読んでいくことになります。

ここでの酒場のオヤジの台詞については「本音を隠した建前や嘘である」という根拠が本文中にありません。また、文脈を追っても、本音を隠す動機や必要性がありませんから、「セリフ≒本音」であるとみなしましょう。

正解

以上により、正解は〈選択肢⑤〉になります。

補足

この設問は、問い方があいまいであるため、〈選択肢④〉がかなり正解に近くなってしまっています。そういう点で、いわゆる「悪問」です。

「このセリフから読み取れる社長の心情」「この時の社長の心情」という設問であれば、決定的に〈選択肢⑤〉を正解にできますが、設問できっぱり条件を作っていないので、どの瞬間での「社長の心情」を答えるべきか不明瞭なのです。

とはいえ、条件がなければ、基本に忠実に「傍線部のときの心情」を問うていると判断し、セリフをそのままストレートに説明している選択肢を選びましょう。傍線部そのものを最も反映している選択肢は〈選択肢⑤〉なので、相対的に最もよい選択肢としては⑤になります。

問4

「兄」の心情を問う問題なので、「兄」の心情表現を探しに行きます。その点で、最大のポイントは「がっかりしたな」です。

このセリフから考えると、「兄」は「がっかりした」のです。

場合によっては、セリフは建前や嘘の可能性もありますが、「建前や嘘である」根拠が本文中に何もなければ、セリフは本音とみなして読解します。さらに直前には、「弱々しい兄の口調」という描写もありますので、「兄」はセリフのとおり「がっかりした」のだと解釈しましょう。

(きっかけ)米の質が粗悪だったため、買ってもらえなかった
(心情)  (特に書かれていない)
(セリフ) どうしよう(弱々しい口調
       ↓
(きっかけ)弟「仕方がないさ」
(心情)  (特に書かれていない)
(セリフ) がっかりしたな
      皆ぼくたちを見てたぜ、
      まあ何だな、出された桃は食べなかったしさ

次に、傍線部内の「まあ」に注目しましょう。「まあ」は、唐突に出てくることばではありません。たとえば、その日初めて会った友達に、「まあ何だな」と話しかけませんよね。

「昨日の宿題終わった?」「まあ、夜中に何とか終わったよ」

というように、(会話などの)何らかの流れを受けるからこそ、「まあ」という表現は出現するものです。

では、「兄」の「まあ」は何を受けているのでしょうか。

それは、「がっかりしたな、皆ぼくたちを見てたぜ」という部分です。

先ほど確認した「がっかりした」という心情は、傍線部その瞬間の心情ではありませんが、このように「まあ」でつながっていることを考えると、解答に必要な論点であると言えます。

ある意味では、「指示語問題の応用型」と言えます。

では、選択肢を検討しましょう。

選択肢の検討

選択肢①

「桃に手を出さなかったことを持ち出して ⇒ 兄としての立場を回復」という因果関係がおかしいです。

自分だけ桃を食べなかったのであれば、弟に対しての立場を保ったとも言えますが、実際には弟も食べていないので、そのことで「兄としての立場」が回復されるとは考えられません。

また、「心情」を問うているにもかかわらず、直前の「がっかりした」という論点を拾うことができていません。「がっかりした」の言い換えとみなせる論点がないので、〈問いに答えていない〉と考えることもできます。

選択肢②

「せめて弟に確認」が読み取れません。

「まあ何だな、出された桃は食べなかったしさ」という「兄」のセリフの後で、「弟」が、「そうさ、ぼくたちは正しかったんだ!」などという「返事」をしているのであれば、ぎりぎりこの解釈が成り立つ余地もありますが、本文ではそうなっていません。「弟」の受け答えがないことからも、この「兄」のセリフは、「自分に言い聞かせている独り言」のようにとることもできます。

いずれにせよ、「弟に確認を取っている」とみなすための「弟の返事」がないことから、「せめて弟に確認」という表現は〇にできないと考えましょう。この部分で×にまではできませんが、少なくとも積極的に〇にはできません。

また、「途方に暮れた」という表現が、「がっかりした」の言い換えとしてぎりぎり成り立つようにも見えますが、「皆ぼくたちを見てた」に該当する論点がありません。

兄が「がっかりした」のは、「お金を得られなかった」ことに対してのものではありますが、「まあ」の直前に「皆ぼくたちを見てたぜ」とあることから、「周囲から見られていた」という論点を無視するわけにはいきません。

この兄弟は、米と金銭の「取引」に来ていたわけですから、お金を得られないのにもかかわらず、桃をパクパク食べてしまっていたら、「単なる子どものおつかい」になってしまいます。

スムーズに事が運べば食べていたかもしれませんが、不穏な空気を察知した兄弟は、「ただの子供のおつかい」とみなされないために、桃に手を出さなかったのです。その態度を周囲に見せることができた、という文脈になっているのです。

俺たちは桃を食べなかった。つまり、空腹にまかせて施しを受けることはしなかったんだ。ただの子どものつかいじゃないんだって、意地をはったんだ。それを示すことはできたんだ。

という気持ちが、兄にはあるのです。

選択肢③

「自分を支えようとしている」という表現に注目しましょう。これこそ、「弱々しい」にまつわる説明です。

一見、「弱々しい」の論点が入っていないように思うかもしれませんが、「支えようとしている」ということは、その前提として、「倒れそうになっている」ということです。つまり、「支えようとしている」という言葉の前提条件には、「精神的に倒れそうになっている自分」が含まれているのであり、その意味で、「弱々しい」の論点が含まれている選択肢であると判断できます。

傍線部は、「まあ何だな~」から引かれています。「まあ」が直前の論点を引きずっているので、「がっかりした」「皆僕たちを見てた」という表現も、「まあ」が含みこむものとして無視できません。その点で、〈選択肢③〉の「屈辱感」という説明は、「がっかり」「皆見てた」から読み取れるものとして適当です。

選択肢④

「こんなことなら桃を食べればよかった」が〈話題なし〉です。

また選択肢③と同様に、「皆見てた」に対応する説明がありません。

選択肢⑤ 

「がっかりしたな」が無視されています。これではかなり強気な心情になってしまいます。

正解

以上により、〈選択肢③〉が正解です。

問5

「本文を通して見いだせる兄と弟の違い」を聞いてきているので、傍線部問題ではありますが、全体把握の設問になっています。

したがって、消去法で考えましょう。迷う選択肢があれば、傍線部の言い換えとみなせるものを正解として判断していきましょう。

選択肢の検討

選択肢①

本文との整合性があるので、×にできません。他の選択肢に×が入れば、これが正解です。

選択肢②

「兄は自分の感情に振り回され」が決定的におかしいです。むしろ感情を抑制して兄らしく行動しようとしています。子どもらしい無邪気な場面も後半出てくるが、感情に振り回されているとまでは言えません。

また、「弟」について、「ささいなことに楽しみを見いだす」という人物像も根拠が薄いので△です。

選択肢③

「無心」が不適です。「桃」に対して葛藤する様子などは、決して無心ではありません。

また、「大人の立場で厳密に」も〈言い過ぎ〉です。〈選択肢②〉の逆方向になる〈言い過ぎ〉であると言えます。酒場では確かに兄として振る舞っていますが、後半は無邪気な側面も見せています。

選択肢④

「意味や象徴性を読み取ろうとする」が〈言いすぎ〉です。そこまで深い世界観を持っているとは考えられません。

また、弟は「見えないもの」に意味を見出し、兄は「見えるもの」に思いをめぐらす、というような区別的な文脈はありません。〈話題なし〉です。

選択肢⑤

「素直に楽しんでいる」が不適です。弟は、「桃」に対しては葛藤していますし、最後の場面では「兄」に対しての「感覚のズレ」に思いをめぐらしています。けっこう考えているのです。

また、「兄は今を見失いがち」も不適です。「逆」だと言えます。兄は「今」にきちんと立ち向かっているからこそ、「不安」や「いらだち」を抱えてしまうのです。

正解

以上により、正解は〈選択肢①〉です。

問6

 「適当でないもの」なので間違えないように! 消去法で考えていきましょう。

選択肢①

適当です。木犀を探している一時の様子は、兄弟ともに無邪気で楽しそうです。

選択肢②

「木犀は~薬代のかわりになる」が〈話題なし〉です。

また、結局木犀には辿り着けなかったのですから、「手に入る実感」もおかしいです。

選択肢③

適当です。

結局木犀は見つからなく、兄はいらだちます。

弟はそこに距離を感じるという描写が最後にあります

選択肢④

適当です。

一時的には兄弟は「木犀を探す」という共通の目的を得て、一体感を得ています。

選択肢⑤

適当です。

本文は、前半が大人の社会、後半が子どもらしい社会、という構造になっています。

正解

以上により、正解は〈選択肢②〉です。

〈補問〉「彼はそくざに黙り込んだ」とあるが、それはなぜか。100字程度で説明せよ。 

補足の問題です。

 月が空を明るくしていた。白い皿のようなそれは兄弟が店にいる間にのぼったらしい。
「ほら」
 弟は兄のシャツを引いた。
「なんだよ」
 とげとげしい返事に弟はあわてた。月の光が昼とはまったく異なる物の影を地上につくりだしているのに弟はおどろいたのだった。その異様な夜景に兄の注意をひこうとこころみて、彼はそくざに黙りこんだ。今の兄が銀色の月に陶酔できるはずがない。

直接的な理由は、「今の兄が銀色の月に陶酔できるはずがない」と思ったからです。そう思ったからこそ、月(月による異様な夜景)を見せようとする行為を慎んだのです。

ただし、これは「思考」における理由です。「そくざに」ということからも、感情的な側面での理由があるのではないか、と考えてみましょう。特に小説は、何らかの「行為」に至るには、何らかの「心情」があると判断するべきです。その観点で文脈をさかのぼると、「あわてた」という感情があります。

「あわてた から 黙った」というのは、十分つながっている論理です。したがって、感情的な理由として、「あわてたから」という論点を書き込みたいところです。

〈端的な理由〉
弟は、今の兄が銀色の月に陶酔できるはずがないと思ったから。 (→そくざに黙りこんだ) 
弟は、あわてたから  (→そくざに黙りこんだ)

この「2つの論点」を解答に取り込みたいところです。

では、不十分(説明不足)なところを解決していきましょう。

〈論点a〉弟が「あわてた」のはなぜでしょうか?

それは、「兄の返答がとげとげしかったから」です。

〈論点b〉「今の兄」は、なぜ「銀色の月に陶酔」できないのでしょうか?

それは、「いらだっているから」です。

直接的な表現はないが、「とげとげしい」から推論可能です。

では、〈論点c〉なぜ兄はいらだっているのでしょうか?

それは、

店主にぞんざいに扱われ、結局、米を売る役割を果たせなかったから。

です。

〈記述想定答案〉100字以内
弟は、月の影響による異様な夜景に兄の気をひこうとしたが、とげとげしい兄の返答にあわてるとともに、店にぞんざいに扱われ、米を売る役割を果たせずいらだつ兄に、月の趣に心を留める余裕はないと思ったから。

④ 「返事」という行為により踏み込めば、「何に対する返事なのか」というところに言及することになる。そのため、字数があるのであれば、「異様な夜景に注意をひこうとした」という論点を書き込めるとよい。

〈採点基準〉⑩点
弟は           (ないと減点)
月の影響による異様な夜景に   ①
兄の気をひこうとしたが     ①
とげとげしい兄の返答に     ①
あわてる            ②
店にぞんざいに扱われ、米を売る役割を果たせず ② 
いらだつ兄           ② 
月の趣に心を向ける余裕はない  ① 「銀色の月に陶酔できるはずがない」のままでも可
と思ったから。